旬のひと・もの・こと特集

第16回 わさび漬[対談]

株式会社 田丸屋本店(2024.05.21)

豊橋名産のちくわと静岡名産のわさび漬、
東海道が結んだ50年の名コンビが新展開へ。

【株式会社 田丸屋本店】
静岡県静岡市葵区紺屋町6番7号

【ホームページ】 http://www.tamaruya.co.jp/
【Facebook】 https://www.facebook.com/tamaruya.wasabi/
【X】 https://twitter.com/tamaruyahonten
【Instagram】 @tamaruya1875 https://www.instagram.com/tamaruya1875/

“新幹線のお供”としておなじみ
老舗2社の名産コラボレーション。

 名古屋、豊橋、静岡から東京への出張帰り。駅ビルやキオスク売店に立ち寄り、新幹線に乗り込むやいなやシュパッ!至福の一杯のお供に欠かせないのが、「豆ちくわとわさび漬」。東海道といえば!おなじみ弥次さん喜多さんのパッケージにひとくちサイズのヤマサちくわと、小袋入りの田丸屋わさび漬がセットになって、駅近店舗限定で販売されているのです。この組み合わせがまた、「たまらぬ旨さ!」と、SNSでもよく投稿されているので、目にしたことがあるかもしれません。

 東海道線上でご縁が結ばれた、豊橋名産『ヤマサちくわ』と静岡土産の定番わさび漬の『田丸屋本店』。ヤマサちくわは文政10年(1827)創業、一方、田丸屋本店は明治8年(1875)創業と、ともに200年経営を目指す三河・遠州を代表する老舗です。そして、先代からはじまって「ちょうど50年!」のお付き合いになるそうです。
 今回のGEN-B対談では、田丸屋本店 五代目 望月啓行社長をお迎えし、ともに歩んできた歴史と、新たなコラボレーションへの展望について和やかに語っていただきました。

明治時代(左)と大正時代(右)田丸屋本店
田丸屋本店五代目 望月啓行社長(左)
ヤマサちくわ七代目 佐藤元英社長(右)
ヤマサちくわ直営店『広小路でんでん』前にて
広小路でんでん

東海道五十三次から鉄道開通、新幹線へ
“駅の立ち売り”から広まった静岡〜豊橋名産。

昭和13~14年頃の静岡駅前売店(田丸屋本店HPより)

 東は東京、西は京都・大阪、ビジネスに観光にと東西両京をアクティブに結ぶ「東海道」。江戸時代は東海道五十三次、明治時代になって鉄道が開通しました。豊橋駅は明治21年(1888)、次いで翌明治22年(1889)に静岡駅が開業しました。昭和39年(1964)に東海道新幹線が開通してからは、ともに新幹線ひかり・こだまが停車する駅として栄えてきました。

昭和25年(1950)商業施設を設けた民衆駅第一号として開業した「豊橋駅」(ヤマサちくわHPより)
新幹線から飛び出してくる弥次さん喜多さんと、「昔も今も変わらぬ旨さ。これだ!豊橋名産ヤマサのちくわ」の名文句で知られる、懐かしいCM。
豊橋名産ヤマサちくわテレビCM

 “豊橋のちくわ”と“静岡のわさび漬”が名産品として広く知られ、親しまれるようになった発端には、2社ともに共通する“売り方”の歴史がありました。
 田丸屋本店は明治時代の鉄道開業間もなくから静岡駅で、一方ヤマサちくわは昭和初期から豊橋駅で、列車がホームに着いた時に乗昇降客に直接販売する“立ち売り”をしていました。これをきっかけに、車内や駅前販売へと発展させながら全国へと知れ渡るようになっていったことも、共通しています。

佐藤: 魚町にあった店から、五代目が竹の皮2枚にちくわ10本を包んで紐をかけたものを箱に入れて運び、豊橋駅のホームで「ちくわ、ちくわ」と声を張り上げながら売って回ったそうです。その掛け声から「豊橋名産ヤマサのちくわ」の売り文句が生まれました。田丸屋さんはなんと、明治時代にすでに駅売りをされていたんですね。

望月: そうですね。もともとは大八車で計り売りをしていたのですが、明治23年(1890)に初代望月寅吉が静岡駅の駅弁にわさび漬を添えて売ったのが好評で、明治28年(1895)からホームでの立ち売りを始めたそうです。そのうちにもっと売るためには何か工夫をしなくちゃということで、わさび漬の容器を平樽にしたところ、これが評判になって全国に知られるようになりました。

写真提供:株式会社田丸屋本店
佐藤: 今も昔も、土産物は特にパッケージが決めてですね。乗車前にパッと目を引いて手にしてもらわなくちゃいけないですから。
 豆ちくわと田丸屋さんのわさび漬も、専用の箱入りセットにして、わさび漬が小袋になっているところが手軽で好評なのだと思います。

望月: あの小袋入りはヤマサちくわさん専用なんです(笑)。

佐藤: ちくわにわさび漬という組み合わせは、私が子供の頃にはすでにあったので当たり前のように思ってきたけれど、ところで田丸屋本店さんとヤマサちくわの関係は、いつ頃どんなきっかけで始まったのか…!? と望月社長と話題になったんだよね。

望月: はい。私も子供の頃にはすでに食べていましたし、家業に就いた時はすっかり定番になっていました。社内で確認したところ、当時の元営業部長が憶えていてくれました。

佐藤: 弊社も聞き取りをしたところ、元常務が当時の話をしてくれました。

紺屋町田丸屋本店(静岡市)2023年2月に飲食店を併設し、リニューアルオープン。

両社の担当同士が意気投合して生まれた、
お土産・おつまみの絶妙マッチング!

佐藤: JR東海(東海旅客鉄道株式会社)になる前の国鉄時代、豊橋駅は愛知県内ではなく静岡鉄道の管理局管内にあったんですね。その関係で先代から公益財団法人鉄道弘済会(キヨスクや駅ビル事業)などでも静岡の業者の方々とのおつきあいが濃かったと聞いています。
 そんなご縁もあって、昭和48年(1973)に沼津駅の駅ビル(現アントレ:静岡ターミナル開発株式会社)新設の際にヤマサちくわが出店をしました。

望月: 同じタイミングで田丸屋本店も同施設に出店をしたのがきっかけですね。

佐藤: そうそう。弊社の当時の営業部長と田丸屋本店さんの営業部長が意気投合して、さらに弊社常務と田丸屋本店専務までが意気投合。「ちくわにはわさび漬でしょ!」となって、ヤマサちくわに付けるわさび漬の小袋を作ってもらったことがお取引きの始まりでした(笑)。

望月: その話を聞いて、「…ということは両社がコラボしてちょうど50年!じゃないか!」と(笑)。

佐藤: 東海道の宿場町、城下町という共通点や東海道線の駅の立ち売りで発展してきた歴史も同じ。それぞれ創業200年(ヤマサちくわは1827年創業)、150年(田丸屋本店は1875年創業)を間近に控えていることですし、何か新たな展開を考えていきたいね!と話し合っていたところです。

望月: 弊社もかつては観光需要が主だったわさび漬のメーカーから、さらに多品種の商品開発や販売スタイルを展開していくわさび総合メーカー・商社へと展開していくタイミングに来ています。ヤマサちくわさんとの新しいコラボレーションも楽しみです!

ヤマサちくわのDMにも、今回の対談の様子をご紹介。

土産物や贈答品としてだけでなく、
地元でもより親しまれる“食べ方提案”を。

写真提供:株式会社田丸屋本店
佐藤: ところで、「わさび漬」の発祥っていつ頃からなんでしょうか?

望月: ワサビの栽培は、慶長年間(1596~1615)に駿河(現静岡市)安倍川上流の有東木(うとうぎ)村で始まり、わさび漬は宝暦年間(1751~1763年)になって開発されたと言われています。ワサビの生産者が茎(葉柄)をぬか味噌漬にして食べていたものをもとに、駿河の行商人が塩漬けした細断ワサビに酒粕を混ぜることを考案し、『わさび漬』と命名して販売したのが始まり。その後、明治時代になって静岡市新通りに漬物屋を開業していた田丸屋の初代が、陸蒸気に着目し、駅の立ち売りをするようになりました。

写真提供:株式会社田丸屋本店
佐藤: やっぱりわさび漬のルーツは田丸屋本店さんが古いんですね!信州や伊豆にもわさび漬を作っているところはありますが、関西や関東圏でわさび漬を食べる文化はあまり聞かないです。蒲鉾にわさびを添える「板わさ」とはまた違う味わいですしね。田丸屋さんのわさび漬はどんなところが特長ですか?

望月: 刻んだワサビの葉や茎、根を塩漬けした後に酒粕や調味料に漬け込むのですが、弊社では「ワサビアジャポニカ(国産本わさび)」のみを原料に、地元静岡の酒蔵の酒粕をメインに使用しています。通常は新粕を使うところ、うちでは3ヶ月間熟成をかけ、酒粕の複雑な味わいを醸し、オリジナルのブレンドにこだわっています。清酒も酒粕も毎年同じではないので、安定した味わいを保つことも自社の技術です。

写真提供:株式会社田丸屋本店
佐藤: 酒粕の芳醇な香りとワサビの辛味がほどよく調和して、あの独特の旨味になっているんですね!

望月: 国産ワサビの鮮度と繊細な芳香や味わいを保つために、ベテランスタッフの手作業と最先端の自動システムをバランスよく取り入れています。根の部分は辛味が多く、茎は食感が出るので、それぞれ丁寧に選別し、商品ごとにどうやって違いを出すか、いろいろな味わいを楽しんでもらえるように工夫しています。

写真提供:株式会社田丸屋本店

佐藤: 熱海の旅館などでは、蒲鉾にワサビではなくわさび漬が添えられていたりするんです。板わさよりも味わいがあって、私はいくらでも食べられちゃいます(笑)。

望月: もともとワサビや日本酒は魚とよく合いますから、ワサビ+酒粕でつくるわさび漬は、ワサビ単体よりも旨味が掛け算となって複雑な味わいになるんですね。だから、当然米飯ともよく合うんです。私たちは味噌汁に入れたりもします。

佐藤: 味噌汁にですか!さすがに赤味噌じゃあないよね(笑)。

望月: そうですね(笑)。静岡は米みそ圏なので、白味噌と淡色系味噌との中間ぐらいの味噌です。

写真提供:株式会社田丸屋本店
写真提供:株式会社田丸屋本店
佐藤: 私たちは子供の頃からわさび漬を食べてきましたが、関東や東北に行くとあまりなじみがないようですね。

望月: やっぱり三遠南信(愛知県東三河、静岡県遠州、長野県南信州)がメインで、その東西となるとまだまだ広まっていない感はあります。

佐藤: ヤマサちくわの直営店でも、田丸屋本店のわさび漬をずっと販売してきたのですが、当たり前に思っていてあまり強く推してこなかったことを反省しています。これをもっと発信しないと!「WASABI」はちくわよりもワールドワイドに知られているので、これからは「WASABI」についていこうかな(笑)。

望月: (笑)ワサビも、1980年代に寿司ブームが世界的に広まってそれについていったわけですしね。海外ではいま日本食がとても人気で、「WASABI」が日本食の代名詞のようにもなっているので、いろいろな仕掛けをしていきたいですね!

写真提供:株式会社田丸屋本店
佐藤: 田丸屋さんは、もうすでに海外向けにも多種のわさび関連商品をリリースしていますよね。

望月: そうですね。最近はインバウンドで国内にも海外の方が多くいらっしゃいますしね。弊社のわさび漬は、合成の着色料や甘味料は一切使用しておらず、日本古来から伝わる日本人の食生活にマッチした味わいです。これまでは観光土産品として県外向けのイメージが大きかったのですが、やっぱり地元の方にも召し上がっていただく機会づくりや工夫をしていかなくてはと思い、レストランを直営してわさび漬をより身近においしく楽しんでいただける提案もしています。

佐藤: それはいいですね!お互い原料製法にこだわった異分野どうし、半世紀以上のおつきあい。良いものは良い、旨いものは旨い!東海道線では有名な「ちくわとわさび漬」の老舗企業コラボを、一緒に全国に発信していきましょう!


ちくわを炭火で焼いて、アツアツを望月社長もガブリ!もちろんわさび漬と味わっていただきました。

 毎年6月第3日曜日の父の日は、「わさびの日」(静岡県山葵組合連合会制定)です。ワサビの栽培面積・産出額ともに全国1位を誇る静岡県で、140年余りにわたり国産ワサビにこだわったわさび漬を作り続けてきた田丸屋本店。これからも老舗パートナーとして、150年、200年と、ちくわとともに東海道から世界へ向けて、走っていきましょう!

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