旬のひと・もの・こと特集

第4回 クラフトスピリッツ[対談]

クラフトスピリッツAKAYANE(赤屋根製造所)/(有)佐多宗二商店(2019.12.20)

【晴耕雨読醸造元(有)佐多宗二商店】
本社 鹿児島県南九州市頴娃町別府4910番地

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NEXT STAGE!令和注目
「クラフトスピリッツ AKAYANE」の旨味を識る。

創業百十余年本格芋焼酎の蔵元を招き、
豊橋にてクラフトスピリッツのシンポジウムを開催。

 クラフトビールに続いて、スピリッツ(蒸留酒)の分野でも“クラフト”が人気を集めています。「クラフトスピリッツ」とは、最高品質の原材料と製法にこだわって少量生産される個性豊かな「蒸留酒」のこと。ジン、ウォッカ、ラム、テキーラが四大スピリッツと言われますが、日本においては焼酎がその代表格、いずれも蒸留酒類です。

 焼酎とくれば、やはり九州。鹿児島県南薩摩の地で1908年に創業した『佐多宗二商店』は、<晴耕雨読><不二才(ぶにせ)>といった本格焼酎の老舗蔵元として知られています。

 ヤマサちくわ株式会社が2019年4月に酒販部門として新たに立ち上げた「美酒蔵 はなたれ屋」 。焼酎を蒸留する過程で1番最初に蒸留器から垂れてくる原酒を“初垂れ(はなたれ)”と呼ぶそうで、そうした稀少な美酒を厳選してお届けしたいという想いを込め、屋号としています。

 さらにこだわりの酒づくりの真髄を、GEN-Bの皆さんにお伝えし、豊かに学び、味わっていただこうと、2019年11月27日、ヤマサちくわ直営店『ねりや花でん』(豊橋市)にて、第1回シンポジウム「NEXT STAGE! 令和注目 クラフトスピリッツ AKAYANE」を開催。鹿児島の赤屋根製造所/佐多宗二商店から製造本部本部長 中原章仁様をお招きし、セミナーと併せ、新しい蒸留酒・スピリッツのテイスティングや料理とのペアリング等をお楽しみいただきました。

 また、当日はヤマサちくわ株式会社 7代目 佐藤元英社長自ら腕をふるい、愛知県産 ほうろく菜種油ですり身を揚げた酒肴でおもてなし。中原氏とのものづくりトークと併せて、佐多宗二商店の蒸留酒へのこだわりについてご紹介します。


左から佐多宗二商店 中原章仁製造本部本部長、ヤマサちくわ株式会社 佐藤元英社長、福島県只見町から<米焼酎ねっか>の合同会社ねっか脇坂斉弘代表

さつま富士の麓にて、原料から無農薬栽培。
「耕・甕・絆」の精神で、新たなスピリッツを開拓。


写真提供:佐多宗二商店

 “さつま富士”とも呼ばれる開聞岳を望む南九州市頴娃(えい)町は、豊富な地下水と温暖な気候に恵まれ、良質なさつま芋の産地としても有名。佐多宗二商店では、自社の理念である「耕・甕・絆」にもあるように、「仕込みは耕=畑から」を実践。自社畑で、「コガネセンガン」(焼酎に適した原料芋)の無農薬栽培も手がけています。


写真提供:佐多宗二商店

 三代目 佐多宗公社長は、「世界に通用する焼酎やジンなどのクラフトスピリッツを造りたい」と、従来の焼酎蔵とは別に2016年に「赤屋根製造所」を新設。蒸留酒造りに欠かせない蒸留機は、本館の5基に加え、イタリア製のグラッパ蒸留機に始まり、ドイツの蒸留機メーカー アーノルド・ホルスタイン製のハイブリッドをオーダーメイド、さらにコニャック用のシャラント式まで、計4基が新たに導入されました。


写真提供:佐多宗二商店

 日本の焼酎造りにおいては、もろみに直接蒸気を入れる<直接加熱蒸留>が主流とされてきました。佐多社長がヨーロッパの蒸留所を視察する中で、世界最高峰のフルーツ・ブランデーの造り手 ジャン・ポール・メッテ氏に出会い、スピリッツ造りを学んだことから、「蒸留機の違いで新しい焼酎ができる」ことに開眼。西洋式の<間接加熱蒸留>を取り入れることで、 “焼酎は蒸留するから酒質の幅が広がる”という新たな時代への一歩を踏み出しました。


写真提供:佐多宗二商店

 赤屋根製造所に導入した<間接加熱蒸留>は、フルーツブランデーやグラッパ等、世界の蒸留酒が古くから使用している原始的な蒸留方法です。焼酎を造る場合、直接もろみに蒸気を入れないため、もろみの香りがダイレクトに感じられる従来にはない味わいに。さらに蒸留時間や蒸留機により、同じもろみから多様な酒質が醸され、焼酎の醍醐味、蒸留における味の違いを豊かに表現できる革新的な焼酎造りが可能となりました。

● 蒸留について(佐多宗二商店HP)


中原: かつては「どんな麹や芋を使っても、蒸留をすればみな同じ」と考えられていた時代もありました。ヨーロッパで歴史を重ね育まれてきた蒸留の技術と文化を識り、自分たちの造る焼酎を“蒸留酒の一種”という角度から見つめることで、もっと楽しんでいただける焼酎を!という想いが高まり、AKAYANE誕生につながりました。醸造と同じように、私たちも“蒸留屋”としてNEXT STAGEを開いていきたいと考えています。


写真提供:佐多宗二商店

日本の旬の素材をボタニカルに使用。
和食素材と調和するAKAYANEクラフトジン。

 セミナーでは、佐多宗二商店/赤屋根製造所の理念や製造環境、<間接加熱蒸留><直接加熱蒸留>の違い、造りや特徴を説明。さらに自社の芋焼酎をベースに旬の食材や国産の無農薬・有機栽培・無化学肥料で栽培した素材をボタニカルに使用し、手間暇かけ丹精込めて造られたスピリッツを、第一部では15種類、第二部では7種類をテイスティング。さらに、薩摩産スピリッツと三河産食材とのマリアージュも楽しめるよう、ヤマサちくわのちくわや練りもの、青じそオリーブオイルを使ったオードブル、干物などが用意されました。

中原: 収穫した生芋のみ、麹米から全て自社製を使用しています。麹を使った焼酎がベースですから、ジュニパーベリーだけを使用した AKAYANE クラフトジン にも、もろみが使われていることになります。それが日本の食材、調味料、調理法ともなじみやすく、日本人が共感できる美味しさとなっているのではないでしょうか。
さらに柑橘、胡瓜、大葉、きのこなど、日本の食文化に根づく春夏秋冬を象徴する香り、風味を組み合わせたクラフトジンなど、料理とのペアリングやカクテルベースとしても多彩にお楽しみいただけると思います。

佐藤: なるほど、度数は高めでも食中酒として味わえるのは、ベースとなる焼酎のもろみの風味が生きているからなんですね。生姜や山椒が香る AKAYANE クラフトスピリッツ も、たいへんおもしろい味わい。生姜はちくわや練りものとはとても相性が好いですし、山椒も豊橋名物の鰻など、三河の濃い目の味付けのアクセントになりそうですね。

中原: 長崎産の生姜、和歌山産の無農薬ぶどう山椒を使っています。山椒は鰻はもちろん、たれ系の焼鳥や焼肉など脂っこい料理にもすっきりとした後味が人気です。芋焼酎がベースなので、ジンですがお湯割にしても香りがとてもふくよかになっておいしいんですよ。これも実は、麹菌のなせる技で、清酒や醤油と同様、熱に強いため温めるとふっくらとした味わいを楽しめるんです。

佐藤: このラベルも、可愛くておしゃれ。従来の本格焼酎とブランドを分け、「AKAYANE」として展開されたのもインパクトがありましたね。

中原: 従来の商品を取り扱ってもらっている酒屋さんに、いきなりクラフトスピリッツだアブサンだと持ち込んでも、すぐには理解され難いですから。
薩摩はもともと、琉球王国や中国との貿易にも意欲的で、異国文化など知らないものに対する憧れが強いんです。何度かの焼酎ブームを経て、原料や仕込みの方法などある程度出尽くした感がある中で、よそが手をつけていなかったのが、「蒸留」という原点だった。海外に日本の焼酎を売り込もうとして、これはかなわない!と気づかされたのが、ヨーロッパの蒸留文化の世界でした。
設備を大規模にして蔵を大きくして儲けることよりも、「日本の“蒸留屋”になりたい!」。わかってくれるひとにわかってもらえるものをつくりたいという方向に、舵を切ったわけです。

佐藤: その思い、すごくよくわかります。当社は「鉛は金に変わらない」をモットーにしていますが、それと同じ。フランチャイズ化して大きくしていくのか、自店舗だけで勝負していくのか、というところですね。
やっぱりね、自分がこだわってつくったものをお客様に直接「おいしい」と言ってもらえるものづくりをしないと、満足感は得られませんよ。儲かるとか、そういう問題ではない。見た目だけで“どこもいっしょ”にされちゃあ、おもしろくないですよね。

中原: まったくその通りです。今まで食べたことがない、飲んだことがないという人が口にした時、純粋に新鮮な感覚で受け入れてくれて、「これはおいしい!」と言ってもらうことで新たに気づかされることもある。あえて地元でなく、例えばパリや香港の人においしいと感じてもらうにはどうしたらいいか。特に飲食においては、保守的であるばかりではなく、臨機応変に変化していかくては。既成概念や常識に縛られ、冒険を恐れるあまり、結局ナントカ流になってしまっては意味がありません。

佐藤: 特に近年は、消費も含め世の中が二極分化されてきたので、少々高価でも本物、マニアックにこだわる人もいれば、安かろうでいい、酔っぱらえればいいという層も増えつつある。どちらの道を歩むのかを明確にして、ものづくりをしていかなくてはいけない時代ですね

創業100年以上の歴史を重ねてきた
ものづくりの会社として「伝え継ぎたい想い」。

中原: お酒離れ…魚離れ…ということもよく聞きますが、人の「心」が携わっているのが、本当のものづくり。飲食の世界はまだまだ可能性があるし、蒸留家・蒸留屋として、「焼酎ってこんなにおもしろいんだよ!」と、若い世代に伝え継いでいけるものづくりをしていきたいですね。そしていずれは、日本の風土に合った日本のオリジナルの蒸留機をつくりたい!

佐藤: そう、機械を開発して売るのがいちばん儲かるよ(笑)。お酒は嗜好品だけに、練り製品と違ってこだわりを伝えやすいところは羨ましいなあ。

中原: そこはたしかにありますね。日本は、楽しいときも悲しいときもお酒は必要という文化。しかも、料理と合わせてこれほど多彩に身近に食中酒として飲む国は、世界を見ても唯一じゃないでしょうか。

佐藤: 祭事も含めて、日本の食文化とお酒は切り離せませんね。ともに創業100年を超える会社として、今後も学び合い、こだわりのものづくりを伝え続けていきましょう。


写真提供:佐多宗二商店

● 「美酒蔵 はなたれ屋」


● ヤマサちくわ直営店『ねりや花でん』(豊橋市)


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