第5回 あいち/名古屋『豊・食・人 GEN-B』交流会
「198年三河で続く、昔も今も変わらぬ”うまさ”の秘密」日時 | 2025年 4月19日(土) 《昼の部》11:00~14:00 《夜の部》17:00~20:00 |
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場所 | 四間道レストランMATSUURA 名古屋市西区那古野1-36-36 https://www.shikemichi.jp |
お話 | ヤマサちくわ株式会社 七代目 代表取締役 佐藤元英 https://yamasa.chikuwa.co.jp/ |
桜の余韻と入れ替わるように、新緑が鮮やかに芽吹き始めた頃。名古屋城下、江戸時代の風情が薫る「四間道(しけみち)」にて、久しぶりとなるあいち/名古屋での「豊・食・人 GEN-B」交流会が開催されました。
会場は、約380年前の土蔵をリノベーションしたフランス料理の名店『四間道レストランMATSUURA』。名古屋駅にほど近く、円頓寺商店街とも隣接するこの界隈は、近年旬のグルメスポットが増え、また『円頓寺秋のパリ祭』など人気イベント等でも注目されている活気に満ちたエリアです。
今回は「198年、三河で続く、昔も今も変わらぬ”うまさ”の秘密」をテーマに、ヤマサちくわ七代目 佐藤元英社長と、同店の松浦仁志オーナーシェフによる、1日限りの初のスペシャルなコラボレーションとして、昼夜2部制で実現。満席となるほど期待が高まるなか、人気のフレンチとちくわ・練りものの新たな可能性を切り拓く、美味しく学び多き会となりました。
例年を上回る汗ばむほどの陽気となったこの日。お食事の前に、蔵のひんやりと心地よい空間で佐藤社長のお話に耳を傾けました。
冒頭に「豊・食・人 GEN-B」の名称が、三河弁で食いしん坊を意味する“げんび〜”に由来すること、そしてこの会が創業200年に向けて豊かな食と人をつなぐべく2017年に発足した経緯について語られました。
佐藤: | ヤマサちくわのモットーは、「鉛は金に変わらない」。これは六代目が遺した言葉で、要するに「金メッキは作るな、原料にとことんこだわりなさい」という意味です。
昭和30年代にスケトウダラなど冷凍すり身の技術が確立されると、特別な技術がなくても簡単にちくわが作れる時代になり、低価格のちくわが多く出回るようになりました。しかし、それでは魚種の個性が生かされず、どこも一律の味になってしまう。 私たちは、その流れとは一線を画したちくわづくりに努めてきました。今では珍しくなりましたが、当社では、産地から届いた鮮魚を職人が手さばきで丁寧に加工します。これが私たちの原点であり、あえて守り抜いているこだわりです。 |
5本100円ほどで売られているちくわもある中、その違いは原料にもあります。練りものでは高級魚とされるエソ・グチ・ハモという魚。エソは骨が多くて家庭の食卓にはのぼりにくいものの、その身の旨味は抜群。グチ(イシモチ)は、かまぼこ業界では最高峰とされ、しなやかで力強い“アシ”(歯ごたえ)を生み出します。ハモは、独特の風味と旨味をちくわに与えるために少量加えます。ヤマサちくわの〈特選ちくわ〉と〈特製ちくわ〉の違いは、このグチの配合量にあり、特選はグチの量が圧倒的に多く、弾力も格段に強くなります。季節や水揚げの状況によって魚の種類は微妙に変化しますが、それを職人が絶妙にブレンドすることで、ヤマサちくわならではの奥深い味わいが生まれるというわけです。
漁獲をめぐる環境は年々厳しさを増しており、魚の確保にも工夫が必要です。「長崎、愛媛、和歌山など、全国の漁師との長年培ってきた信頼関係を大切に、最高の原料を追い求め続けている」と語る佐藤社長。その揺るぎない姿勢こそが、「鉛は金に変わらない」という哲学を支えているのです。
こだわりは魚だけではありません。つなぎに使うでんぷんもまた、何十年も取引のある北海道産の最高等級のもの。決め手となるみりんは、三河産の本みりんです。こうした“ほんもの”の調味料を使うことで、ちくわの皮の焼き色や風味が全く違うものになるそうです。
原料の鮮魚は、工場で下処理された後、「水さらし」という最も重要な工程に入ります。魚の身をきれいな水で洗い、血液や余分な脂肪、弾力の邪魔になる水溶性のタンパク質を流す。このひと手間で、魚本来の旨味は残しつつ、歯ごたえのある低脂肪・高タンパクなすり身の土台が生まれるのです。
佐藤: | ここまでの工程も、職人の技や“塩梅”は欠かせませんが、さらにこだわっているのが石臼による擂潰(らいかい)です。いま大手の多くは機械攪拌(フードカッター)ですが、創業当時から我々は石臼で“練る”。魚の身を石臼と杵の間ですり潰し、塩を加えることでタンパク質が変性し、複雑な網目状の構造が生まれます。この網目が、あの独特の弾力と歯ごたえになるのです。 フードカッターでは均一なペーストは作れても、複雑で豊かな食感は生まれません。手間を惜しまず、職人の手で「練り上げる」。それこそが、ヤマサちくわが「練り製品」たる所以です。 |
佐藤社長は、こうした“ほんもの”の仕事を伝え継いでいきたいと、小学校への出張出前教室といった食育活動にも力を入れています。また、このGEN-Bでの出会いから生まれた『クラタペッパー』とのコラボ商品や、放送作家・小山薫堂さんとの対談から生まれた“皮だけのちくわ”など、伝統を守りながらも新しい挑戦を続ける精神についても語りました。
お話の後は、風がそよぐ前庭での炭火焼き体験です。佐藤社長が目の前で、竹の棒にすり身をリズミカルに巻き付けていく実演に、参加者からは感嘆の声が上がります。
「蒲鉾のほうが、何度も塗り重ねるので難しいんですよ。ちくわは一発勝負です」。
手渡された生のちくわは、普段目にするものよりずっと太く、ずっしりとしています。それを各自が炭火の上でくるくると回しながら、じっくりと焼き上げます。次第に表面がぷっくりと膨らみ、芳ばしい香りと共に美しい焼き色がついていく様子は、まさに五感を刺激するエンターテインメント!
「こんがり焼きたては至福のお味」「自分で焼いたアツアツのちくわ、最高!」と、その格別な味わいに皆様は満面の笑みで撮影大会。レストラン内の皆様と入れ替わりで楽しみました。
落ち着いた蔵内のレストランでは、いよいよ松浦シェフによるお料理のコース。長野の銘酒・宮坂醸造の「真澄スパークリング」で乾杯です。キリリと上品な味わいに、「これが日本酒!?」と驚きの声が上がりました。さらにこの日、松浦シェフが身につけていたエッフェル塔柄の前掛けについて、帆前掛け専門店『エニシング』西村和弘社長がご紹介。
西村: | 豊橋が一大産地であった「三河木綿」の伝統を受け継ぐこの帆前掛けは、昔ながらの製法で一枚一枚丁寧に織り上げています。このデザインは2024年パリオリンピックを記念した日仏交流がテーマで、プランスのデザイナーたちが手がけてくれました。 |
「かっこいい!」「お洒落!」と沸くなか、「炭台やフライヤーの熱から身を守ってくれますし、骨盤がキュッと締まるので腰痛にもいいんですよ」と佐藤社長も太鼓判を押しました。
コラボレーションのお料理については、松浦シェフから一品ずつ説明がありました。
松浦: | ヤマサちくわさんの製品は、どれも味が絶妙に完成されているため、試行錯誤を重ねました。よくフランス料理は足し算の料理と言われますが、今回は引き算をしたり、掛け算をしたり、様々な工夫を凝らしました。 |
その言葉通り、コースは参加者の想像を遥かに超える、驚きと感動の連続でした!
○ ちくわのアミューズ・グール
まずはヤマサちくわの美味しさを純粋に味わってもらいたいから、と蒲鉾の板にかわいくのせたチーズディップと磯辺揚げでウェルカム。
○ そら豆とすり身フラン コンソメゼリー
なめらかなそら豆のフランに、ヤマサのすり身が優しい旨味を添えます。きらめくジュレとのコントラストも美しい、春らしい一皿。
○ 桜の葉 しんじょう
松浦シェフ自らが塩漬けにしたという大島桜の葉で、ふんわりとしたしんじょうを包んだ一品。香りにまずうっとり。
○ スペシャリテ 農園野菜とちくわのテリーヌ
松浦シェフのスペシャリテが、この日は特別仕様に!巻いているのは、ヤマサちくわが開発した「皮ちくわ(巻子竹輪)」。色とりどりの野菜の甘みとちくわの皮の凝縮された旨味が見事に調和、その宝石のような美しさに感激!
○ ホワイトアスパラとクラタペッパーのちくわカルボナーラ
旬のホワイトアスパラの甘みに、濃厚なカルボナーラソース、〈クラタペッパー入り黒胡椒豆ちくわ〉がアクセントに。ピリリとした刺激と芳香、胡椒との調和を堪能しました。
○ 白身 帆立 オマール海老のクネル
魚のすり身をベースにしたフランス・リヨンの伝統料理を、ヤマサの高品質なすり身を使うことで、驚くほど軽やかかつ滋味深い味わいに。「今まで生きてきた中で、一番美味しいクネル!」そんな声が上がった感動の一皿。
○ 名古屋コーチンとすり身のパイ包み焼
ジューシーな名古屋コーチンと旨味を含んだすり身を、ベーコンとサクサクのパイで包み込んだ贅沢なメインディッシュ。フレンチの王道と練りものの新たなマリアージュに満足。
○ 桜のちくわごはん
桜の塩漬けと〈桜豆ちくわ〉、香ばしい桜海老を混ぜ込んだ、桜づくしの華やかな土鍋ご飯が登場!和とフレンチが見事に融合したコースにふさわしい、〆の一品でした。
○ デザート/小菓子/お飲物
エキューム(泡)仕立てのひんやりデザート、ミニチュアの椅子にちょこんと座ったカヌレやギモーヴなどのプティフールが運ばれると、一斉に「かわいい!」と声が上がりました。
参加された皆様からのご感想やSNSの投稿には、「和の練り物たちがボンジュール!もう魔法ですね」「ちくわの概念が変わりました」「練りもの好きには夢のような一日!」と、喜びと驚きの言葉が溢れました。
アンケート後にお渡しするお土産には、新製品のスイーツ〈と・と・たま〉や〈ちくわマグネット〉。ちくわ柄の前掛けバッグやユニクロとコラボした〈ちくわTシャツ〉も大人気!新緑の中で味わう焼きたてちくわ、クリエイティブな料理の数々、昼夜ともに各界でご活躍の皆様が集い、華やかで実り多き出逢いに満ちた交流の一日となりました。
つくり手と食べ手が出会い、語り合い、ともに味わう。素材の背景にある物語を知り、料理人の技と情熱に触れることで、食は糧を超えて文化となり、感動体験へと昇華します。ヤマサちくわ198年の伝統と、松浦シェフの革新的な感性。この二つの出会いによって、また新たな美味しさの扉が開かれたのではないでしょうか。
名古屋はもちろん、東京、豊橋から、京都からご参加くださった皆様、ありがとうございました。今後もより多くの皆様に「豊・食・人 GEN-B」にご参加いただけるよう、充実した企画をお届けしていきます。ぜひご参加ください。