旬のひと・もの・こと特集

第19回 トリイソース[対談]

鳥居食品株式会社(2026.05.19)

浜名湖を越えた、100年企業の出会い。
練りものとソースのおいしい可能性。

【鳥居食品株式会社】
静岡県浜松市中央区相生町20番8号

【公式サイト】 https://www.torii-sauce.com/
【オンラインショップ】 https://www.torii-sauce.jp/
【トリイ食堂】 https://shokudo.torii-sauce.com/

ソースは素材を活かすための「脇役」、
そこには数多のチャレンジが息づく。

 2025年9月、GEN-B稲刈りツアーの初日。1924年(大正13年)の創業以来、浜松でソース造りに邁進してきた『トリイソース(鳥居食品株式会社)』を訪れました。四代目 鳥居大資社長によるトリイソースについてのレクチャーと、工場・直売所を見学。原料、製法へのこだわり、ソースのオリジナリティとバラエティ、その美味しさに参加者全員「ナットク!」の太鼓判でした。

● 四谷の千枚田(愛知県新城市)「豊・食・人 GEN-B 稲刈りツアー2025」


 その後、2025年11月本社に近接して『トリイ食堂』も新規オープン。ソースを主役にした「家庭料理」と伺い、ヤマサちくわ株式会社七代目 佐藤元英社長が、2026年1月に再訪しました。
 豊橋—浜松という近距離の交流はもちろんのこと、何より厳選された素材の活かし方、独自のソースづくりの工夫など、「職人による手づくりソース」を守り続けながら進化し続けるものづくりに共鳴。練りものとトリイソースとの新たな出会いを探るという目的もありました。

 鳥居食品では、「調味料は主役(素材)の良さを引き立てるあくまでも脇役」という信念に基づき、無添加・無着色・無香料のソースを造り続けています。
 四代目 鳥居大資社長は語ります。
 「食材そのものが美味しくなった現代において、ソースの役割は変わりました。かつては肉の臭み・えぐみを消すためのマスキングが主目的でしたが、今は素材の良さをいかに引き立てるか。目立たないけれど、そこはかとなく個性や香味が存在する。それが私たちの理想です」。

 100年続く家業を背負いながら、鳥居社長はそれを決して“型を守るだけの伝統”とは捉えていません。
 「失敗も数知れずあります。酢の造りを抜本的に変えたり、日々トライ&エラー、チャレンジの連続です。僕がどんどん新しいことを言い出すので、社員には申し訳ないくらい」と苦笑い。

「ゆっくり」と「まるごと」が醸成する、
職人仕込みの唯一無二たる野菜の旨味。

写真提供:鳥居食品株式会社

 製造工程にも、「ここまで!?」と驚くほどの手間がかけられていました。まず印象的だったのは、原料にペーストやパウダーを使わず、生の野菜をまるごと用いていること。効率だけでは測れない、素材への向き合い方と味づくりへの姿勢がそこに表れていました。
 野菜は生もののため、5〜7月は地元産、秋以降は北海道から佐賀へと産地をつなぎ、鮮度の高い玉ねぎなどを確保。さらに調理法も独特で、野菜は常温から加熱し、60℃に達するまでをできるだけゆっくり進めます。60℃を超えると酵素が失活するため、その手前まで時間をかけることで、野菜本来の旨味を引き出しているそうです。

 さらに、煮込んだ野菜はあえて裏ごしをしません。ここで活躍するのが「石臼(いしうす)」です。濡れた状態のまま石で擦り潰す「湿式」の手法で、トマトなら皮も種もまるごと擦り潰します。皮の近くにある濃いうまみまで余さず取り込みながら、雑味は出さない。ソースの味の要となるのが、この石臼です。
 ヤマサちくわでも、すり身の味や食感を左右するのはやはり100年選手の石臼。均一でない凸凹が旨味のテクスチャを生み出します。目的や用途は違っても、ものづくりのこだわりに通じるものがありました。

ヤマサちくわ株式会社工場

 ソースの味を支えるうえで欠かせないのが「酸味」です。多くのメーカーが仕入れたお酢を使うなか、トリイソースは創業以来、お酢の自社醸造を続けています。ここでも貫いているのは、効率優先ではなく、菌の働きを見守りながらじっくり発酵させる「静置発酵法」です。
 「速醸法なら1時間ほどで進む工程ですが、うちでは発酵に約1カ月、さらに熟成に約1カ月をかけます。酢酸菌が表面に白い膜を張って酸素を取り込み、発酵が終わると、その膜がすっと底に落ちる。それが“発酵終了”の合図です。時間はかかりますが、その分ツンとこない、まろやかで深みのある酸味が生まれます」(鳥居社長)

 さらに近年は、使われなくなった酒粕に砂糖を加えて酵母を再活性化させ、アルコールを経てお酢へと育てる「粕酢」の手法も取り入れているとか。地域の寿司店や餃子店にも親しまれるこのお酢が、ソースにほかにはない奥行きをもたらしています。

ホールスパイスを絶妙配合で贅沢に使用。
木桶仕込みならではの、「桶底の恵み」。

写真提供:鳥居食品株式会社

 香辛料の扱いもまた贅沢です。粉末ではなく原形のスパイスを、お茶を淹れるように濾し袋に入れ、ソースの中にじっくりと漬け込みます。苦味や薬っぽさを出さず、香りだけを贅沢に抽出。その後は、工場の奥にある木桶で熟成させます。そう、ステンレス製ではなく、「木桶」なのです。
 醤油や味噌の世界でも、近年稀少な「木桶仕込み」を復活させる動きが活発ですが、ソースで木桶を維持し続けている蔵は、全国でも指で数えるほど。それでもこだわる理由があります。

写真提供:鳥居食品株式会社

 「木桶の表面にはミクロの凹凸があり、それが接触面積を広げて熟成を助けます。また、木そのものがソースを吸い込み、成分を記憶する。木桶には、“これまでのソース造りの記憶”が刻まれているんです」と鳥居社長は熱く語ります。
 木桶の中で、ソースは重力に従って分かれます。上から4分の3は、さらっとしたキレのある〈ウスターソース(赤ラベル)〉。そして底に沈殿した、野菜やスパイスの旨味の結晶である濃厚な「オリ」の部分──これが〈桶底ソース(青ラベル)〉となるのです。

ソースの新たな役割を探り、食卓へ。
「家庭料理の実験場」トリイ食堂。

 「ソースと一緒になった料理の味が美味しい!」と言われるソースづくり。こうした伝統的な手仕事の価値を、現代の食卓にどう繋げるか。そのひとつの答えが、2025年11月21日にオープンした『トリイ食堂』です。

 ソースでお魚を煮るとどうなるか、ソースでマリネをしたら…など、誰もが真似できる“家庭料理”を通して、ソースの新たな可能性を知っていただきたい。そのため、従来の概念を覆す新しい提案を、工場の社員自らが工夫し、運営しています。

 「トリイソース料理」とも呼ぶべき人気の日替わり定食は、メインから小鉢までトリイソースやオリジナルの調味料が生かされています。ソース屋がつくる食堂ならではのお楽しみ、8種類のソース+自家醸造のお酢の試食やかけ比べも!ソース好きにはまさに至福のランチスポットです。

写真提供:鳥居食品株式会社

● トリイ食堂(予約制)

静岡県浜松市中央区相生町19-14

[対談]ヤマサちくわ meets トリイソース
新たなコラボに向けた試食会&対談。

 あらためてトリイソースの真髄に触れ、家庭料理の新境地を味わった後は、本題の試食です。ヤマサちくわ人気のラインナップ〈特製ちくわ〉〈厚焼〉〈上揚半〉〈野菜ソフト〉と、トリイソース の〈中濃〉〈ウスター〉〈桶底〉などを様々な掛け合わせで食べ比べ。味わいの発見や組み合わせの妙など、感想や意見も含め、おふたりにお話を伺いました。

佐藤: 今回の試食に当たってネックになっていたのが、「塩味」です。練り製品における塩は、単なる味付けではなく、魚のタンパク質を凝固させるための重要な役割です。面白いことに、美味しい塩とされているミネラル分(不純物)の多い塩は、実は練りものには向かないんです。

鳥居: 製造用の「並塩(なみしお)」の方がいいと

佐藤: ええ。まあどこかのブランド塩と言ったほうが高値で売れるのかもしれませんが(笑)。いいテクスチャを作るためには余計なものが入っていないほうがいい。良い雑味は魚そのものの味で出せばいいですし。脂を水洗いして、魚のたんぱく質をいかに引き出すか。我々の分野は「侘び寂び」というか、“引き算”がものをいいますね。

鳥居: なるほど。我々とは真逆ですね。例えば、砂糖には雑味があったほうがいいので、ミネラルなどの雑味がたくさん入ったものを使います。黒糖まではいかないけれど、複雑さを出したいので“足し算”の味なんです。

佐藤: わかります。ですから、今回双方の製品を合わせてみるに当たっては、淡味(たんみ)の練りものに対して、複雑なソースを合わせると、ソースの味が勝ってしまい、合流地点が見つからないのではないかという懸念はありました。

鳥居: たしかに難しくはありますが、相互に補い合い、新たな接点が見つかることに期待をしています。では、早速試食をしてみましょう。

佐藤: 中濃ソースと〈上揚半〉で一口食べてみて、一体感がまだ足りないという印象です。ソースが先味になって、ちくわが後味として残りますね。味が別々に主張していて、まだ着地していないという感じがありました。

鳥居: 私もそう感じます。ソースの酸が入ると素材の塩分が強調されてしまうのか…。ちくわをバターで軽くソテーしてみましょうか。

佐藤: (一口食べてパッと表情を変え)ああ! これだ。着地した! 全然違いますね。一気に味がまとまった。

鳥居: そうですよね。練りものにも、うちのソースにも、共通して足りなかったのはオイルです。どちらも脂が少ないから、味が滑って重ならなかった。そこにバターという脂のクッションを介したことで、ソースの酸味と魚の旨味が劇的に一体化した。

佐藤: これはすごい。中濃ソースもいいけれど、特にこの桶底のコクがバターと合わさると、リッチな味わいになりますね。冷めても美味しいし、むしろ冷めたほうが味が染み込んで、より一体感が出る。これなら、お弁当や新しい食べ方としての提案も考えられるかな。

枠にとらわれない新テイスト提案で、
三河の味噌と浜松のソース文化が越境!

佐藤: 今の世の中、何でもマヨネーズでしょう。ちくわパンもそう。でも、どれもこれもマヨネーズの味になってしまい、素材の味わいを殺してしまう。でも、トリイソースなら、素材の味を立たせたまま、パンに合う洋風の味に仕上がりそう。

鳥居: マヨネーズを使わずに、キャベツとちくわと、美味しいソースだけで完結するちくわドッグ、いいですね!フライにしても、マヨネーズより絶対に合うと思います。

佐藤: それ、最高です!ソースの酸味はキャベツに合いますし、素材を活かす我々の仕事としては、断然ソースに軍配が上がりますね。
私は天ぷらにもソースをかけるくらい、子どもの頃からソース大好き。トンカツも、ソースで食べるのがおいしい。トリイソースの中では、桶底とベジソースが合うかな。食堂のランチでは、煮魚にウスターソースが使われてましたね。

鳥居: 魚の臭みが苦手という声があるので、臭み消しという意味ではソースはかなりの力を発揮します。煮汁っぽくするには、さらりとして香りの良いウスターソースが合うという発見がありました。

写真提供:鳥居食品株式会社
佐藤: それはこれまでの煮魚の概念を変える、新たな挑戦ですね。
浜名湖は三河と遠州の境ですが、そのあたりから西の味噌文化と東のソース文化がガラッと分かれますね。

鳥居: 味噌とソース、色は似ていますが(笑)文化は明確に違いますね。

佐藤: 調味料の好みに対して、人はなかなか頑固で変わりません。でもトリイソースなら、その境界を超えるきっかけになれるのでは?

鳥居: 実は僕は昔ソースが苦手だったんです。なみなみと注がれたソースにドボンと漬けて食べるような環境で育って、ソースの味しかしないのが嫌で。だから自分が納得できるソースを作ろう!と、試行錯誤しながらいまのソースづくりに辿り着きました。

写真提供:鳥居食品株式会社
佐藤: トリイソースは野菜の味が感じられ、料理の風味を活かして引き立てくれる。だから「もっと食べたい!」と思えるんです。
ヤマサちくわとトリイソースを一緒に販売することで、また新たな味の提案へと発展していけるとおおいに期待しています。

鳥居: ありがとうございます。これを機に、ようやく浜名湖を越えて、豊橋と浜松の味のつながりが生まれてくるかもしれませんね。楽しみです!

 伝統を守りながら、既成概念の枠にとらわれず新たな挑戦を止めないふたりの経営者。職人としての誇りを原動力に、両社が描く次なる一手に期待が高まります。皆さんもぜひ新たな味の出会いにトライしてみてください。



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