旬のひと・もの・こと特集

第5回 クラフトスピリッツ・焼酎[対談]

米焼酎ねっか/合同会社 ねっか(2020.04.24)

【米焼酎ねっか/合同会社 ねっか】
福島県南会津郡只見町大字梁取字沖998

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「世界一和食に合う米焼酎」をめざして
南会津・只見が次世代へつなぐ熱い想い。


写真提供:合同会社 ねっか

米・酒どころ福島にあって、蔵元がない。
自然首都・只見生まれの生粋の「米焼酎」を造りを。

 東北・福島といえば、全国屈指の酒どころ。県内の酒造メーカー・蔵元の数は60を超えるといわれています。その中で、県西南部南会津に位置する只見(ただみ)町で、米作りと日本酒の醸造の技術を生かしたお米の蒸留酒「米焼酎」を手がける日本一小さな蒸留所があります。


写真提供:合同会社 ねっか

 『合同会社ねっか』奥会津蒸留所は、只見町の4人の米農家と1人の醸造技術者が、「受け継いだ田を守り、豊かな自然の中で米をつくりつづける大切さ」を次世代に伝えるべく、『合同会社ねっか』を立ち上げ、2016年より<米焼酎ねっか>を作り始めました。

 伊南川や只見川の清流と豊かな森林資源に恵まれ、美しくのどかな田園風景が広がる只見町は、“自然首都”とも呼ばれ、2014年ユネスコエコパークにも登録。日本有数の豪雪地であり、昼夜の寒暖の差が大きく、豊富な水源とともに、米作りはもちろんのこと、日本酒造りにも最適な環境があります。


写真提供:合同会社 ねっか

 「ところが、すぐ隣町には何軒もあるのに、只見にはひとつも蔵元がなかったんです」と語るのは、『合同会社ねっか』代表の脇坂斉弘さん。出身は郡山市、ものづくりの仕事がしたくて、只見の隣町にある日本酒の酒蔵で16年間働き、主に酒造りの要となる麹や酛(もと=酒母)作りを任ってきました。

 「その当時から、地元で採れる米を使い、地元の水と人が醸し、地元の人に飲んでもらうのが、地酒としての理想だと思っていました。よその土地の酒米で酒造りをすることに疑問を持ち、地元の農家さんに声をかけて福島県で開発された『夢の香』という酒米を試験的に作ってもらったこともあります」。
 そうした農家からは、「人も機械も歳をとって、どんどん農業をやめていくばかり。自分たちだけでは手が回らない状態で、これからどうやって田んぼを守っていったらいいのか」と悩みを打ち明けられることもあったそうです。


写真提供:合同会社 ねっか

 脇坂さんと只見町との縁は、奥様の故郷だったこと。ある時只見町長から、「只見町には日本酒などの特産品がこれといってないので、次世代へとつなげられるような酒蔵をつくってほしい」と相談がありました。が、脇坂さんは、日本酒というところに躊躇が・・・。
 「地酒で町おこしといっても、日本酒の国内の消費量は最盛期の3分の1にまで落ち込んでいるのが現状。新規に酒類の製造免許が発行されることはほぼ100%ありませんし、一旦はお断りしました」。
 ところがその2年後、市町村の特産品を原料として使うなど、条件を満たせば新規に取得できる新たな「特産品焼酎製造免許」の制度を知り、一念発起。勤めていた隣町の酒造会社を辞め、免許取得に乗り出しました。


写真提供:合同会社 ねっか

見切り発車しか許されない状況の中、
米作りから手がける独自の米焼酎を追求。


写真提供:合同会社 ねっか

 免許取得にあたり、一番のハードルとなったのは、初年度から10キロリットル(720ml入り四合瓶でおよそ2万本)の焼酎を生産し、さらに申請に際してはこの数量の焼酎を確実に販売できることを証明する書類も必要であること。つまり、免許取得の前に、会社を設立し、社屋や酒蔵を建て、試作を作れないまま売り先を確保、証明しなくてはなりません。
「普通ならとても無理とあきらめざるをえない話ですよね(笑)。しかも、日本酒を造る技術はあっても、焼酎はない。そんなものが売り物になるのか・・・。米焼酎の味わいについても、全く想像ができませんでした」。


写真提供:合同会社 ねっか

 それでも、自分たちで米作りから手がけた只見産の酒米を使うことを前提に、日本酒造りよりも通年雇用へとつながる米焼酎を製造しようと決意。地元の田んぼを次世代へとつなぐ事業として、「いまやるしかない!」と、2016年7月に酒米農家4名と会社を立ち上げ、同年12月には空き家をリノベーションし工場を完成。2017年1月、福島県で初の「特産品しょうちゅう免許」の交付を受け、すぐに <米焼酎ねっか>の製造が始まりました。


写真提供:合同会社 ねっか

 「普通は4〜5年はかかるところを、半年足らずという超スピード取得です(笑)。ただ、免許は田んぼをいかに次世代に残すかが第一の目的であって、そこには“酒の味”というものは含まれていない。試作もしていないわけですから。
 免許が出る1ヶ月前に、米焼酎の産地・熊本の蔵元を全員で訪ねてまわったんです。当地との差別化も含め、福島県の只見町で焼酎を造るとはどういうことか?何にこだわるか等についてとことん話し合った結果、酒米から全量自分たちで作り、吟醸酒のような焼酎を造ろう!と。実に、免許取得の2週間前に決まりました(笑)」。


写真提供:合同会社 ねっか

自ら米を作り、米の魅力を熟知した蔵人が、
世界に通用する只見独自の米焼酎を追求。

 焼酎は、蒸留するまでは基本的に日本酒と同じ製造方法で作られます。日本酒の酵母と清酒用の麹菌を使用して発酵させ、でき上がったもろみをそのままろ過して絞れば日本酒に、そのもろみを蒸留したものが米焼酎となります。


写真提供:合同会社 ねっか

 <ねっか>は、自分たちで育てた地元産の酒米に、清酒用の麹菌を用いて作られた麹を使用。米焼酎の多くは、酒米の精米歩合90%程度ですが、<ねっか>では60%まで削っている商品も。これは吟醸酒と同じ歩合で、「焼酎でそこまでしても味は変わらない」という声も。しかし、求めたのはふくよかな「吟醸香」にありました。
 また、減圧蒸留にこだわり、小さな蒸留機を用いることで30度という低温蒸留を可能にしています。結果、500Lのもろみで180L、日本酒の約1/2程度しかできないという、なんとも稀少で贅沢な“ジャパニーズ・クラフト・ライス・スピリッツ”が生まれました。


写真提供:合同会社 ねっか

 2017年の蒸留初年度より、スペイン、イギリス、香港など海外コンペティションで数々の最高賞を受賞。2019年には「ふくしま地産地消大賞」、「新しい東北復興ビジネスコンテスト大賞」を受賞するなど、産業復興や地域振興に貢献した事業として高く評価されています。現在は、国内に加え、英国や香港など海外への輸出販売も行っています。

写真提供:合同会社 ねっか

福島<米焼酎ねっか> & 豊橋<ヤマサちくわ>
日本の酒・食文化の魅力を、を世界へ、未来へ。

 折しもこの4月からスタートしたNHK連続テレビ小説『エール』で、主人公のモデルとなった古関裕而が福島、妻の金子が豊橋出身とのことで、<米焼酎ねっか><ヤマサちくわ>がタッグを組んで、さまざまな福島&豊橋のコラボレーションを各地で展開中。
 脇坂さんとヤマサちくわ株式会社7代目 佐藤元英社長に、地域の産業活性と子供たちの未来へと伝え継いでいけるものづくりについて、語っていただきました。

場所:豊橋市『ねりや花でん』

佐藤: <ねっか>という名前がおもしろいですね。

脇坂: 只見町を含めた南会津で使われる方言で、「まったく」「全然」のように強調の意味で使われる言葉ですが、銘柄名としては、可能性を否定せず前向きな気持ちでものごとをとらえる「ねっかさすけねぇー(まったく問題ない)」の精神を込めました。

佐藤: なるほど。ラベルにも田んぼの絵が描かれているけれど、小学生や高校生に田植え、稲刈りから焼酎酒造りまで、授業として体験させているところも素晴らしいですね。
さらに自分たちが育て、仕込んだお酒を、何年か先の成人式でプレゼントしてもらえるという、米作り酒造りを通して学校教育と地域産業をつなげ、成果を出しているところがまたすごい。


写真提供:合同会社 ねっか
脇坂: ありがとうございます。地域の小学校へ魚食文化を伝える出張ちくわ教室を自ら実践されている佐藤社長に褒めていただけるのは光栄です。
授業では、味覚を育て、只見のお米の美味しさを知ってもらうため、みんなで作ったお米も一緒に食べるんですよ。子供たちは、学習発表会はもちろん、修学旅行先の東京駅などでも、只見のお米や焼酎のPRを積極的にしてくれています。


写真提供:合同会社 ねっか
脇坂: 只見町には、現在高校卒業後に通える専門学校、大学がなく、進学や就職で町を出る子が多いんです。最初に揃って帰省するタイミングが成人式。その時に昔の記憶を思い出してもらい、あらためて自分たちが生まれ育った只見にはおいしいものやすばらしいものがいっぱいあるぞ、がんばっている大人たちも大勢いるんだってことを再認識してもらえたらと。

佐藤: 「ふるさと」って、風景もだけど小さい時に何を食べたとか、舌で覚えてきたふるさともありますもんね。そういう記憶や感動はやっぱり大切だし、感じる機会を作ってあげたいなと思い、私も活動をしています。
今の子は加工されたものばかり食べているので、魚の匂いも知らない。ちくわが何からできているか、知らない子もいるくらい。

脇坂: そうかもしれません。東北も愛知も、醸造文化や独特の食文化がありますね。実は愛知の醸造、酒造りに関しては、これまでほとんど知識がありませんでした。西の方だと一気に京都・大阪・兵庫、東は東京というような・・・

佐藤: 名古屋飛ばし、というやつですね(笑)。愛知、とりわけ三河は人の言うことに左右されないという独特の文化があるんです。たとえば、みりん・お酢の文化などは、東北ではあまり見られませんよね。

脇坂: そうですね。東北の味は、塩蔵がベースになっていることが多いですね。今回、味噌おでんをいただいて、「これはねっかに合う!」と思いました。ガツンとした味なのでロック、ストレートでもいい。おでんならゆるめに燗をつけてもいいですね。

佐藤: いいですね。愛知のお酒もどちらかというと重めが多く、味噌おでんにはとても合います。でも、やっぱりビールもよく出ますが(笑)

脇坂: <ねっか>は、炭酸で割ってハイボールとしてビールのように召し上がっていただくのもオススメです。日本酒の吟醸香の豊かさと、ウォッカのようにタテにキレのある味わいの良いとこ取りでもいいますか。和食、とりわけ寿司にはよく合うんです。


写真提供:合同会社 ねっか
佐藤: それはいいね。海外の人には、日本酒よりもスピリッツとしてなじみやすかもしれませんね。

脇坂: そうですね。「焼酎」という名前は知られていないけれど、試飲してもらうと味は評判が良いです。


写真提供:合同会社 ねっか
佐藤: 海外コンペティションでの評価も高いですね。

脇坂: おかげさまで。海外で受賞すると、地元のおじちゃんおばちゃんにも「たいしたもんだなー!」と言ってもらえたりして、伝わりやすい(笑)。
お肉や天ぷらなど油のあるものとも合いますし、「世界一和食に合う焼酎」として、国内外にどんどん広げていきたいですね。


写真提供:合同会社 ねっか
佐藤: やっぱり、酒造りはいい酒を作る、うちは美味しいちくわを作る、それに尽きる。自分の商売のミッションが何かというのが明確にあって、それに合った商品や売り方でないと、いくら利益を上げても気持ち悪いし楽しくないんですよね。
<ねっか>さんも、本質からズレたりブレたりせず、うまく伝えることができたから賞も取れたのでは。

脇坂: ありがとうございます。ヤマサちくわさんの工場を見学して、私もまず驚いたのが、あれだけの規模の工場で、意外にも工程ごとの人のや多さ、手作業の多さ。丁寧に作られているという印象でした。私たちの酒造りでも、日々手で触れるお米の温度など、人の感覚って非常に敏感で大事なところです。

佐藤: お酒でもちくわでも、本物のものづくりって、材料原料からちゃんとしていて、しっかりと信念を持った技術があって、あとはやっぱり「作り手の愛情」かな。結局そこが重要だと思うんですよね。

脇坂: 同感です!焼酎造りの良いところは、日本酒と違って賞味期限がないところ。生まれてからがスタートで、時を重ねていくことで深まっていくんです。まだ3年なので、ここからですね。自分が作る酒は、子供たち世代のための酒造りですから、それが次の代、また次の代へと、思いとともにさらに繋いでいけたらと思います。

佐藤: 賞味期限がないというのは羨ましい!(笑)。うちも200歳をめざして頑張ります。

脇坂: うちはまだ3歳ですから、創業200年はすごいですね!これからもよろしくお願いします。

 両社のコラボは、2月に東京で開催された「ヤマサちくわ1DAY POP-UP SHOP in 京橋」をはじめ、今後も各地で展開予定です。ご期待ください!


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NHK連続テレビ小説「エール」の放送を記念して、『エール』コラボセット も発売中!「ねっか」「ねっかHI」とヤマサちくわ 人気商品がセットになった家飲みセットで、おうち時間を和やかにお楽しみください。


写真提供:合同会社 ねっか

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