和食伝聞帖

第2回 2018.12.06

「ハレ」の練りもの、いまむかし。

お正月のおめでたさを重ねて祝う、
おせち料理。

 お正月は、五穀豊穣を司る年神様をお迎えし、家内安全、子孫繁栄などの福を授けていただくための行事です。「おせち(御節)料理」は、平安時代に宮中で元旦や五節供など節日を祝うため、神様に食べ物をお供えした「御節供」(おせちく)が起源。江戸時代以降、一年で最も大切な節日にいただく料理として庶民にも広まり、「おせち」という言葉が残ったようです。

 正式には四段の重箱に料理を詰め、五段目は年神様からいただく福を詰める段として空にしておくのだとか。福招きにちなむ洒落た風習ですね。
 段ごとに詰める料理がそれぞれ決められており、吉数とされる奇数五、七、九の数・種類で詰めると縁起がよいとされています。
 最近では、二〜三段重が主流となりつつありますが、その場合は「一の重」に祝い肴と口取り、「二の重」に酢の物と焼き物、「三の重」に煮物を詰めます。

 「一の重」には、お酒に合う祝い肴。無病息災、子孫繁栄、五穀豊穣を願う黒豆・かずのこ・田作りの“三つ肴”は欠かせません。口取りには、伊達巻、昆布巻き、紅白かまぼこ、栗きんとんなど。いずれも縁起の良い意味あいをこめた料理が詰められます。

ハレの料理を華やかに彩る、
紅白蒲鉾の歴史。

 新年を祝う「ハレ」の料理は、華やいだ彩りもまたご馳走。特に紅白の蒲鉾は、紅が「おめでたさ」や「魔除け」、白が「清浄」「神聖」を表し、半月型に切られた蒲鉾が「初日の出(年神様)」の形に似ていることから、おめでたい象徴とされています。

 この紅白蒲鉾を詰める際には、古代中国の陰陽説にならって「右紅左白(うこうさはく)」、つまり右に華やかな色=赤を配する決まりごとがあります。切る厚みについては・・・最近では、「11ミリ」が歯ごたえも最高!と太鼓判を押す人が多いようです。

 『類聚雑要抄抄(るいじゅうぞうようしょう)』という古い文献によると、蒲鉾がハレの宴席に登場したのは、平安時代後期。永久3年(1115年)、関白右大臣藤原忠実が京の東三条殿 に移転した際の祝賀料理献立に、“蒲鉾”という字と図が残されています。この頃はまだ板付きではなく、摺り潰した魚の身を蒲(ガマ)の穂のように竹管に練りつけた現在の竹輪のような形状で、これが“蒲穂子”と呼ばれるようになったとか。この説に由来し、「全国かまぼこ連合会」http://www.zenkama.com では11月15日を「かまぼこの日」としています。

 板付蒲鉾として文献に登場するのは、室町時代中期。安土桃山時代には豊臣秀頼が大阪城帰城の途、加藤清正が伏見の料理人 梅春に蒲鉾を作ってふるまったという話や、本能寺での織田信長の最後の晩餐に供されたという話も史実として伝えられています。
 明治時代の文豪・夏目漱石の『吾輩は猫である』作中では、正月に「口取の蒲鉾」として登場。その他の作品でも扱われていることから、この時代に比較的裕福な家庭でハレの料理として食されていたことがわかります。家庭のおせち料理に紅白蒲鉾が定着したのは、戦後の高度経済成長期以降のようです。

 ヤマサちくわ七代目佐藤元英社長によると、「昔は当社でも、扇のように竹串を刺した“末広”をはじめ、縁起物の形をあしらった“地紙”“金扇”という商品名の細工蒲鉾を受注生産していた」とのこと。ホテルや結婚式場など、冠婚葬祭の引出物には、厚手のどっしりした蒲鉾が人気だったそうです。

ふっくら黄金色、
新鮮なすり身と卵が味の決め手。

 もうひとつ、おせち料理を彩る花形といえば、「伊達巻」。魚のすり身に鶏卵と砂糖を混ぜて焼き、巻いて棒状にしたもので、関西以西では「の巻」や「トラ巻」などとも呼ばれます。梅の花の型に流し込み、焼いたものは「梅焼き」。
 おせち料理の中でもひときわ目立って粋で、華やかで・・・その起源は、江戸時代にさかのぼります。

 当時ポルトガルと交易のあった長崎にて、ポルトガルの「トルタ・デ・ラランジャ」というロールケーキの技法をもとに作られ、「カステラ蒲鉾」として江戸に伝わりました。

 くるりと書いた「の」の字型が、伊達者(洒落者)たちの派手めの着物や女性の伊達締めに似ていたため、伊達巻と呼ばれるようになったとか。また、文書や絵などが書かれた巻物にも似ていることから、学問や習い事の成就を願っておせちに入れられるようになりました。

 笹かまぼこが名産の仙台ゆかりの名将 伊達政宗はどうやら由来ではないようですが、日本記念日協会によると、大阪の寿司具メーカーが伊達政宗公の命日5月24日を記念し、「伊達巻の日」として制定。大阪寿司やお正月など「ハレ」の一品として、華やかで滋養豊かな伊達巻を、日本の食文化として後世に伝えていくことを目的にPRに力を入れているそうです。

 専用の角鍋で表裏両面を焼き上げ、竹の鬼すだれで「の」の字に巻き、冷めてからすだれを外す。関東と関西では、すり身、全卵、砂糖の配合が異なるようで、関西の方がすり身は多め、関東ほど甘くないようです。
 最近は厚焼き卵やだし巻きに取って代わられることも増えたようですが、ふんわりしっとりとした自然の甘みと絶妙の塩気、見た目の華やかさは、まさに「ハレ」の特別な料理としての風格を感じます。

 おせちで残ったら、ちらし寿司やカレーのトッピングにアレンジしたり、バターをひとかけのせてオーブントースターで温めれば、やさしい味わいのデザートに。
 お正月に限らず、雛祭りなどお節句や誕生日などお祝いの食卓にも、伊達巻きを加えることでぱっと華やかになること間違いなしです。

一年の「円満」を感謝していただく
練りものとは?

 「ハレ」の料理は、無事を祝い、感謝し、さらなる福を願い、神様にお供えし、それを皆で分かち合っていただくもの。創業190余年の歴史を重ねてきたヤマサちくわでは、先先代以上前から、年に一度の「えびす講」や大晦日には、その年の感謝を込めていただく特別な「ハレの練りもの」があるそうです。
 その名も「丸半」。

 「半月」として通年販売されている人気商品を、まんまるの満月のような形にしたものです。毎年12月31日には、豊橋市の本店のみで販売。地元では、年越しに欠かせない一品として、蒲鉾や伊達巻きと一緒に買い求める人が多いそうです。
 ふるさとに帰省したり、自宅でゆっくりのんびり迎えるお正月。食卓を囲んで、それぞれの地域ごとに伝わる「ハレ」の料理について話題にしてみてはいかがでしょう。



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●ヤマサちくわ出店情報 12/26(水)〜1/1(火)


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