第12回「GENBIANS」ツアー
静岡奥座敷・オクシズ編開催日 | 2024年 7月21日(日) |
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行き先 | 株式会社田丸屋本店わさび田とわさび漬け工場見学/有東木/ガイアフロー蒸留所 | |||
行程 | 株式会社田丸屋本店・わさび田見学 ー 有東木『うつろぎ』(昼食)ー オクシズ(俵峯)エリアーガイアフロー蒸留所見学 ー 田丸屋工場見学とわさび漬作り体験 | |||
ご案内 |
ヤマサちくわ株式会社 七代目 代表取締役 佐藤元英 https://yamasa.chikuwa.co.jp/ |
一口サイズの豆ちくわに、小袋入りのわさび漬のセット。豊橋名産ヤマサちくわと静岡名産田丸屋わさび漬は、東海道線のおみやげ、おつまみとしておなじみの名コンビです。2社は、東海道の宿場町、城下町という共通点や駅の立ち売りで発展してきたという歴史も同じ。ヤマサちくわは文政10年(1827)創業、一方、田丸屋本店は明治8年(1875)創業と、ともに200年経営を目指す三河・遠州を代表する老舗です。
2024年春、ヤマサちくわ七代目 佐藤元英社長と田丸屋本店五代目 望月啓行社長との〔対談〕では、先代から続いて「ちょうど50年」のおつきあいになるとのことで、「ぜひとも新たなコラボレーションを!」とおおいに盛り上がりました。
(対談・わさび漬の歴史についてはこちら)その50年の節目を迎えての特別企画として、「静岡田丸屋本店さんのわさび田を観てみたい!」という佐藤社長のリスエストから、第12回「GENBIANS」ツアー 静岡奥座敷・オクシズ編が実現しました!
ツアー当日は、ヤマサちくわ 佐藤社長とGEN-Bスタッフ、東京・名古屋方面からの参加者が静岡駅で合流し、田丸屋本店 望月社長のご案内で、朝の爽やかなうちに、いざ!『田丸屋わさび園』へ。
標高300mを超える湧き水豊かな山間地に、100年以上も前から続く「石畳方式」による わさび園がひろがります。沢の脇道に立つと、猛暑の中でも清涼な水音と空気に一気に包まれます。
わさび園を管理されている安倍山葵業組合組合長・出雲清教さんに、オクシズのわさび栽培の歴史や栽培環境について詳しくお話を伺いました。
わさびの栽培は、慶長年間(1596~1615年)に駿河(現静岡市)安倍川上流、標高700mに位置する「有東木(うとうぎ)」で始まったとされています。
1607年、駿府城に居していた徳川家康が献上されたわさびを気に入り、同地区からわさびを持ち出すことを禁じ、18世紀中期に伊豆地域へと栽培法が伝播するまでは、有東木から門外不出の御法度品とされていたそうです。
田丸屋は、このわさび栽培発祥の地である「安倍奥」に自園を保有(もうひとつは富士山の湧き水が豊富な富士宮市)しています。花崗岩に磨かれた13℃前後を保つ湧き水に恵まれ、一年を通して良質なわさびを栽培しています。
冷涼な環境に適したわさびは、湧水や清流で育つ「沢わさび」と、陸上で作られる「畑わさび」があり、ともにアブラナ科に属する日本原産の固有種。「沢わさび」は、鮨や刺身に添えるわさびのように主に根茎を食し、「畑わさび」は主に茎や葉が漬物等の加工用に用いられます。
静岡県は現在も、水わさびの根茎(すりおろす部分)生産量とわさび(水わさびと畑わさび)の産出額が、全国一位。また、根茎肥大に優れ、高品質であることから、加工品の「静岡のわさび漬け」は全国的にも有名です。
「石畳方式」によるわさび栽培は、下層から上層へと大小の石を積み、さらに砂礫を敷く複層構造。不純物のろ過、水温の安定、栄養分や酸素の供給ができるため、肥料や農薬もほとんど使わずに、わさびの高品質かつ安定生産を可能にしています。
「この〈静岡水わさびの伝統栽培〉は、2017年に日本農業遺産に、次いで2018年に世界農業遺産に認定されているんですよ」と出雲さん。
過去の自然災害からの復旧工事によって自然災害に強い構造となっているほか、豊富な水を蓄えるとともに水の流れを緩めるため、多量の降雨による河川の氾濫を抑制し、下流域を災害から守る機能も備えているといいます。
また、環境負荷が極めて低い栽培法で、わさび田周辺に生物多様性に富んだ生態系が息づき、豊かな自然環境の保持にも役立っています。
滔々と流れ落ちる湧き水とマイナスイオンたっぷりの環境、みずみずしい葉の周りには、絶え間なくモンシロチョウが飛び交い、清々しい光景にみなさん心を奪われました。
わさび園散策の後は、山道ドライブを楽しみながら、わさび発祥の地「有東木」の人気店『うつろぎ』へ。徳川家康公お墨付きの特産の生わさびをぜひ味わいたい!と、「さびめし定食」で昼食です。
わさびやお茶の葉、茄子など地元の季節の食材を使ったサクサクの天ぷら、郷土料理の牛蒡のたたき。白ごはんにたっぷりのおかか(花かつお)、その上におろしたての生わさびをちょんちょんとのせて、生醤油をひとまわし。わさび特有のツーンとした刺激は強めなものの、辛いだけじゃない、シンプルだからこその爽やかな香味が、暑い夏の食指を心地よく刺激してくれます。お好みで、わさび漬け、わさびのりと味変もこれまたおいしい!手打ちそばにはわさびの茎の和え物が、辛味のアクセントになりよく合います。
渓流を眺めながらのテラス席もあり。店先の販売コーナーでは、葉付きの有東木産生わさびや加工品、自家製の朴葉もちやきんつばなども大人気。また、わさび漬・手打そばの体験教室もあり、10月に開催される「うつろぎ祭り」では、小正月にお供えする花飾り作りなども体験できるそうです。地元のお母さんたちのテキパキとはたらく姿が快い!
午後からは、豊かな自然に囲まれたオクシズの玉川地区にある『ガイアフロー静岡蒸留所』を見学しました。標高200m前後、周囲は400m超級の美しい山々に囲まれ、市街地より気温は常に2〜3度低いという、ウイスキー造りにはまさに好適地。山々の風景と溶け合う建物は、内外装に静岡産の木材がふんだんに使われています。カワセミブルーの暖簾に出迎えられ、約60分の見学ツアーを楽しみました。
静岡蒸溜所は、ウイスキー愛好家だった創業者・中村大航氏が、「スコッチに勝るとも劣らない日本のウイスキー」をめざし、2016年に開設。本場スコットランドの製法を研究してノウハウを磨き、設備の素材、仕込み水、蒸留方法に至るまで、“静岡オリジン”を追求。近年では“原材料からオール静岡産”による唯一無二のウイスキー造りにも力を注いでいます。
ウイスキー造りの工程(原材料大麦麦芽の粉砕・糖化・発酵・蒸留・熟成)を約1時間で巡る見学コースには、静岡産日本杉製の発酵槽や、世界でも類をみない薪による直火蒸留、そして世界的評価を得ながら閉鎖となった『軽井沢蒸留所』から受け継いだポットスチルなど、愛好家必見の見どころが随所にあります。
2Fの受付・試飲ルームは、ここで製造されたウイスキーや海外のウイスキーをはじめラムやジンなどのボトルが並び、オリジナルグラスやグッズも販売されています。見学後、テイスティングやお買い物が楽しめます。
床上げ式で下からも覗ける発酵槽は、オレゴンパイン産や静岡産の杉を使用。
大麦麦芽(モルト)の仕込みには、本場スコットランドのウイスキー用ノンピート麦芽やさまざまな国のピルスナー麦芽等を原材料に使います。また、ジャパニーズウイスキー業界では初の「100%日本産・静岡産モルトウイスキー」の製造を手掛けていることも大きな特徴です。
モルトは異物を取り除いた後、軽井沢蒸留所から移設されたモルトミル(麦芽粉砕機)で粉砕します。
「糖化」は、アルコールのもととなる糖分を生成抽出する工程。まず、粉砕された麦芽を高温のお湯と混ぜ合わせ、マッシュタン(糖化槽)に投入。この時の仕込み水は、蒸溜所の傍らを流れる安倍中河内川の伏流水で、敷地内の井戸から汲み上げた硬度70の中硬水です。このお湯が麦芽の糖化酵素を活性化させ、麦芽のデンプンを糖分に変え、ウォート(麦汁)になります。
木製の発酵槽に移されたウォートに、酵母を添加。発酵が進みアルコールが生成されると同時に、二酸化炭素も排出するため、ぶくぶくと泡立っています。酵母による発酵が終わると、乳酸菌による発酵へ。これがウォッシュ(もろみ)となります。槽を開けると乳酸菌独特のにおいが漂ってきました。
ポットスティル(蒸留機)を使い、ウォッシュを2回蒸留します。蒸留したての液体をニューメイクスピリッツ(ウイスキーの原酒)と呼びます。静岡蒸溜所では、スコットランド製の留釜に加え、軽井沢ウイスキー蒸留所から移設した初留釜Kなど、3基を駆使して数種類の違ったタイプの原酒を造っています。燃料の薪は、地元の山の間伐材を丸太のまま運び、蒸溜所内で薪割りをした後、数ヶ月間自然乾燥をさせたものを使用。
どの工程も室温が高めなので、汗が玉のように流れ落ちるほど。進む先々に給水スポットが用意されています。一般的な間接加熱蒸留の温度は150℃前後ですが、薪直火蒸留の場合は800℃以上にもなるので、作業スタッフの作業服や手袋などは防炎のものを身につけ、完全防備で作業を行います。
2回目の蒸留(再留)の時に、蒸留した原酒の中から雑味のない中間の部分(ハート)だけを選び取る「ミドルカット」という作業があります。採取したウイスキーの原酒は「ニューメイクスピリッツ」と呼ばれ、無色透明ですが、度数は70%近く。全員順にこの嗅ぎ分けを体験させてもらいました。どのグラスの段階がハートかわかるかな?
蒸留によって産み出された原酒を、木製の樽に入れて何年間も熟成させます。ジャパニーズウイスキーになるためには、最短でも3年間の熟成が必要とのこと。樽の種類は、主にバーボンウイスキーの熟成に一度使われた古樽をメインに、シェリー、ワイン、ブランデーなどの古樽を使いますが、新樽を使うこともあります。
樽の中でゆっくり寝かせることで、無色透明だった原酒が琥珀色でまろやかかつ複雑な味わいを持つウイスキーへと醸成されていきます。
熟成された原酒は、それぞれの個性を生かし、かけ合わせて、調合(ブレンド)をしていきます。静岡蒸溜所の求める味わいは、飲みやすく、飲み飽きず、長年の友となるようなウイスキー。見学後は、試飲ルームでその“出会い”を楽しめるという流れです。ひとつの樽で熟成される「シングルカスク」のオーナーになれるプライベートカスクサービスも人気です。人生の記念日のためにマイカスクを持つのも素敵ですね!
見学後は、ここでしか飲めないウイスキーの試飲やお買い物も楽しめます。
オクシズツアーを満喫した後は、再びわさび探訪に戻り、田丸屋本店「見る工場」STEP IN たまるや店へ。国道150号沿いに見える大きなわさびのオブジェ看板が目印です。
本社工場の外周は、「見る工場」として無料で公開されており、セルフで自由に巡ることができます。わさびや会社についての歴史や田丸屋製品の紹介、併設する工場の製造ラインの一部を窓から見学。その他わさびの辛み体験室や360℃プロジェクションマッピングを駆使したわさび田体験室など、大人も子供も五感で楽しめる施設になっています。
今回のツアーの締めくくりは、参加者全員で田丸屋秘伝のわさび漬をつくる実習講座。さらにわさび漬のおいしい食べ方や田丸屋のわさび製品を、地元食材とともにたっぷり楽しんでもらおう!というスペシャル企画です。
研修室のテーブルいっぱいに、生わさびやわさび漬などのわさび製品、カラフルで宝石のような『わさビーズ』、旬の野菜やわさび漬をアレンジしたタルタルディップなどが並びんでいます。もちろん、相性のいいヤマサちくわの旬の練りものもラインナップ。〈半月〉〈豆ちくわ〉〈特選ちくわ〉〈夏やさい満点〉など、タイプ違いのわさび漬と食べ比べも楽しそう!
はじめに望月社長より、【地域資源「わさび」と田丸屋本店】をテーマに、わさびの歴史や優れた機能性、わさび漬の誕生秘話、時代に合わせて変化してきたマーケティングや新たな取り組みについて、レクチャーいただきました。
戦後ながらく定番化してきた観光〜お土産コースからの脱却、さらなる購買機会の拡大、わさびとわさび漬の魅力再発見。そして地域の財産となる食文化のさらなる可能性へと視野を広げ、“見る工場”へのリニューアルや飲食店経営(紺屋町田丸屋本店)等、より多くの人にわさびと親しんでもらうアプローチにも積極的に取り組んでいます。
わさび漬の実習講座では田丸屋社員の方に、生のわさびの茎や塩漬け、田丸屋秘伝の酒粕を使った「わさび漬」づくりのデモンストレーションを行っていただきました。茎はあらかじめ塩漬けしてご用意、生の根の部分は各自でお好みの食感をイメージしながら刻んでもらいます。
各席には、「わさび漬」づくりのキット一式。容器に貼るヤマサちくわと田丸屋のコラボラベルまで!気分も上がります!
わさび漬づくりは、佐藤社長も初体験!参加者には料理関係者や調理師専門学校の指導者など、食のプロが多いこともあり、根わさびをを細かく切り刻む手際も鮮やか!あちこちから快い包丁の音が聞こえてきます。
刻んだわさびは、ビニール袋の中で塩をまぶし、しっかりと揉み込んだ後、田丸屋こだわりの地元酒造の酒粕、砂糖を加えてなじませます。専用容器に絞り出し、ラベル張りをしたら完成!初めての“マイわさび漬”、お味が楽しみです。
用意された新鮮な夏野菜やヤマサちくわの練りものに、種類多彩なわさび漬やわさびで贅沢に食べ比べ。わさび漬タルタルディップなど、アレンジレシピも参考になりました。
併設のお土産コーナーには、わさび漬をはじめとした田丸屋製品や生わさびが種類豊富にそろい、わさび好きにはたまらないラインナップ。お菓子や調味料など、静岡土産や地元商品も幅広く充実しています。
わさびソフトは“追いわさびパウダー”で、さらにピリッ!工場見学&毎月21日「漬物の日」に限定販売される献上品規格〈葵印〉も、運良く出会うことができました。
帰宅してからのお楽しみ、“マイわさび漬”は、講座で提供されたアレンジレシピでマヨネーズとの相性が抜群だったので、〈白はんぺん〉を刻んでわさび漬マヨネーズで和え、ぬか漬けズッキーニと合わせてオーブンサンドに。ぬか漬けの酸味とわさび漬の爽やかな香りは、おつまみにもピッタリでぜひおすすめです。
今年はひときわ残暑も長引くようですが、わさびの風味でさっぱりと、食欲UPに欠かせなくなりそうです。
老舗企業のお付き合いが記念すべき50年!
「ちくわにはわさび漬でしょ!」