旬のひと・もの・こと特集

第14回 帆前掛け <前編>

前掛け専門店エニシング/有限会社エニシング(2023.07.13)

ものづくりへの想いをつなげる、
豊橋から世界へひろがる縁ING!


【有限会社エニシング】
東京オフィス 東京都港区元赤坂1-7-10グランドメゾン元赤坂902
豊橋前掛けファクトリー 愛知県豊橋市大岩町西郷内167―2

ホームページ
【Facebook】 http://www.facebook.com/maekake
【Instagram】 https://www.instagram.com/maekakeanything/

東西を結んだ東海道の二川宿で、
日本一の豊橋前掛けを“REBORN”。

 がしゃん、がしゃん、がしゃん…川のせせらぎと重なってリズミカルに聴こえてくるのは、生地を織る機械「織機(しょっき)」の音。東海道の宿場町として知られる愛知県豊橋市二川の地に、『前掛け専門店エニシング』(本社東京)が運営する【豊橋前掛けファクトリー】が誕生したのは、2019年(令和元年)。かつては日本一の生産地だった豊橋で、「帆前掛け」を専門に製造する唯一の専門店として、あらたな拠点が拓かれました。

写真提供:(有)エニシング
写真提供:(有)エニシング

 いまや海外でも、「日本の伝統の技が生きるCOOL!なワークウェア」として熱い注目を集めている“MAEKAKE”。そのブームの口火を切ったのが、エニシング創業者の西村和弘さん。エニシングの帆前掛けは、ニューヨーク、ロンドン、パリなどの展示会でも話題を集め、映画007最新作「No time to die」にも登場。現在、欧米を中心に世界30か国で販売されています。

写真提供:(有)エニシング

 西村社長は、広島市生まれ。大学では貿易、アメリカ留学でマーケティングを学び、大手食品メーカー勤務を経て、「世界に向けて日本の良さを伝える仕事がしたい」と、当初は漢字メッセージをプリントしたTシャツの企画販売からスタートアップ。 “オンリーワン”を求めた先に、昔ながらの日本の伝統的ワークウェア「帆前掛け」がありました。

 このロゴ入れオーダーできる帆前掛けが、国内外で予想以上の大反響!急遽生産工場を探しまわる中で出会ったのが、すでに国内唯一となっていた前掛けの産地・豊橋で製造を続けてきた60〜70代の職人さんでした。高齢化や後継者不足からいずれ廃業やむなしという現状に、「前掛けなんてやめた方がいい」と釘を刺される始末。ところが西村さんは逆に、「この技術もシャトル織機も、他のどこにもないのがおもしろい!本来の最高級“1号前掛け”を復活させたい!受け継ぎたい!」と意欲を燃やしたといいます。

写真提供:(有)エニシング

 その熱意と縁が紡ぎ紡がれ、縦に横にと繋がり、『芳賀織布』の代表・芳賀正人さんとの信頼を重ね、約100年前のシャトル織機8台を引き継ぐことに。土地探しや職人育成など5年の歳月をかけて、現在の工場を稼働させるに至りました。

写真提供:(有)エニシング

 「作っているところは他にもありますが前掛け専門となると、世界中でも間違いなくここ1軒だけです。さらにシャトル織機そのものが、海外でも稼働しているのはほんの数軒。そうした稀少なものづくりが、国内外からの関心を寄せ、ここ数年はヨーロッパでの展示会やSNSなどを通じて繋がり始めてきています」と西村社長。

 ようやく光が見えたポストコロナの時代。「国や組織の枠組みを超えて、人と人とが結び付き、新たな価値観で社会を作っていくことが必要」と掲げるエニシングの取り組みは、これまでのひとつひとつの「縁」が礎となっています。

【縁】= 個と個が偶然、突然、出会う+
【ing】= 縁が調和し、続いていく
【縁ing】

 そうした積極的かつグローバルなアプローチが功を奏し、2023年3月25日には、エニシングが国内外のデザイナー、アーティスト、ブランド、メーカーとの共に研究・開発するベースメントとなる【ファブリックラボ】を同敷地内にオープン。
 これを機に新たな取り組みとして、日本では西暦799年に三河からスタートしたと言われる「木綿」と、世界中の生産者から届く「シルク/毛糸/麻/和紙など天然の糸」といった素材が重なり合い、ファクトリーにてオンリーワンのファブリック『縁布』を完成させるプロジェクトも進行中。さらに、早くも国内外からものづくりのスペシャリストたちが来訪し、熱い交流が始まっています。

写真提供:(有)エニシング

100年前のシャトル織機ならではの、
「分厚くてもやわらかい」独自の風合い。

 「帆前掛け」は、昔の米屋さん、酒屋さんなどの商店や職人さんが、仕事の時に腰に巻いていた厚手の「前掛け」のこと。室町にも遡ると言われる「前掛け・前垂れ」が現在のような形になったのは、江戸時代。明治以降になって、屋号を染め抜いて店のユニフォームにしたり、広告宣伝の役目も果たすようになっていきました。

写真提供:(有)エニシング

 三河地方では古くから「三河木綿」など繊維産業が盛んで、多くの帆前掛けが生産され全国へと広まっていきました。とりわけ豊橋は、1950〜70年代の経済成長とともに“日本一の前掛け産地”として最盛期を迎え、多い時には1日に1万枚もの帆前掛けが出荷され、豊橋周辺に100軒ほどのメーカー・生産者があったそうです。
 そういえば、昭和世代の子供たちは、漫画『サザエさん』に登場する、 “(その名も!)三河屋さん”や八百屋のおじさんがしていた前掛けに見おぼえがあるのでは?

● 前掛け専門店エニシング 公式サイト<前掛けとは>


 現在エニシングで織られている帆前掛けの生地は、一見「帆布(キャンバス地)」とよく似ていますが、触ってみると、厚みがありながらごわつき感はなく、やわらかな風合い。生地両端の「みみ」に縫い目が無いことも併せて大きな特徴で、これにより腰に巻いた時に体に自然になじんでくれるのです。

写真提供:(有)エニシング

 この独自の生地を生み出しているのが、明治~大正に発明された「シャトル織機」。シャトルとは、設置した経(タテ)糸の間に、緯(ヨコ)糸を左右に往復させて通す道具(杼・ひ)のことで、手織り機でも用いられます。

 シャトル織機は、近年主流のシャトルレス織機のように高速で均一に織るのとは違って、職人がその都度糸の調子を調整しながら、時間をかけて1枚ずつ織り上げていきます。タテヨコの糸に負担を掛けないよう丁寧に織ることで、表面に凹凸が生まれ、手作り感のあるふっくらとした風合いの生地が生まれるというわけです。

写真提供:(有)エニシング

 もうひとつの特徴は、100年前の前掛けにも見られる「紅白の帯(腰ひも)」。赤・朱色は、昔から神社の鳥居などのように、「厄除け」「魔除け」の意味と、生命力や活気をあらわす「おめでたい」「商売繁盛」などの願いが込められています。おへその下「丹田」でぐっと締めることで、気合も入り、腰も守ってくれます。

● 前掛け専門店エニシング 公式サイト<生地のこだわり>



豊橋名産つながりでヤマサちくわと
エニシング前掛けが初コラボレーション。

 豊橋の帆前掛けといえば、GEN-Bの交流会・イベントでもすっかりおなじみなのが、ヤマサちくわ株式会社七代目佐藤元英社長と佐藤善彦副社長の「前掛け姿」。ヤマサちくわのシンボル鯛のマーク入りで、しっかり年季の入ったその風合いは、職人魂の象徴でもあるかのようです。

 2022年8月28日(日)にセルリアンタワー東急ホテル との初のコラボレーションとして日本料理『Japanese Cuisine 桜丘』にて開催された「穂の国とよはし・東三河の歴史と食文化のランチセミナー」では、『前掛け専門店エニシング』も協賛・ゲスト出店。西村社長自ら店内の前掛けディスプレイとPRブースをご担当。
 ホテルレストランの総合プロデューサー/東急ホテルズ専務執行役員の福田順彦総料理長には、特別仕様の“おめで鯛”前掛けをプレゼント!コックコートにも華やかに映え、ゲストにも新鮮だったようで大好評でした。

● GEN-B 活動レポート


 この日はサービススタッフのみなさんも、初の前掛けスタイルに挑戦。エプロンのようにウエストで結んでいたスタッフには、「一番出っ張っている腰骨の上の位置でぐっと締めて!」と西村社長が手ほどきする様子も見られました。

 三河とお江戸を行き来する、豊橋・三河の食と職人文化。そうしたご縁からはじまった、ヤマサちくわ×エニシングの前掛けコラボレーションは、今後もさらにさまざまな機会を通して豊橋ブランドのPRの輪を広げ、強力なチームへと発展していきそうです。

 <後編>では、エニシング前掛けファクトリー&ファブリックラボを訪問・見学した佐藤元英社長と西村社長の“前掛け対談”をご紹介します。


<エニシング 前掛けファクトリー&ファブリックラボ見学会を開催!>
2023年7月29日(土)15:00〜18:30

100年前のTOYOTA、SUZUKIなどのシャトル織機が動くエニシング工場見学会&新たにオープンしたファブリックラボの半期(7月・12月)に一度のオープン見学会を開催します。

イベント内容:工場見学および、ファブリックラボでの生地、および商品販売

参加無料:15時~18時30分の間で、ご自由にお越しください。入退場自由です。
当日は19時~ 旧東海道「二川宿街並み」にて、灯篭祭りも開催されますので、併せてお楽しみいただけます。

[詳細・お問い合わせ]



● 前掛け専門店エニシング オンラインショップ


● ヤマサちくわ オンラインショッピング


● 「美酒蔵 はなたれ屋」


● 豊・食・人 GEN-B facebookページ


TOP