旬のひと・もの・こと特集

第14回 帆前掛け <後編>[対談]

前掛け専門店エニシング/有限会社エニシング(2023.07.19)

ものづくりへの想いをつなげる、
豊橋から世界へひろがる縁ING!


【有限会社エニシング】
東京オフィス 東京都港区元赤坂1-7-10グランドメゾン元赤坂902
豊橋前掛けファクトリー 愛知県豊橋市大岩町西郷内167―2

ホームページ
【Facebook】 http://www.facebook.com/maekake
【Instagram】 https://www.instagram.com/maekakeanything/

海外でも注目のワーキングウェア!
「日本一の豊橋前掛け」をリリース。

 厚手なのにやわらかく、腰にフィットする。日本のものづくりクオリティが活かされた「COOLなワークウェア」として、近年欧米の展示会でも注目を集めている“MAEKAKE”。そのブームを牽引するのは、『前掛け専門店エニシング』を展開する有限会社エニシング代表取締役 西村和弘さん。

写真提供:(有)エニシング

 現在国内唯一の生産地となった豊橋市で長年帆前掛けを手がけてきた『芳賀織布』代表・芳賀正人さんより、技術と共に約100年前に開発されたシャトル織機を受け継ぎ、2019年(令和元年)に同市二川に【豊橋前掛けファクトリー】を開設。かつての最高級品質“1号前掛け”の復活に取り組んできました。

● 第14回 帆前掛け <前編>


 2022年8月、ヤマサちくわとセルリアンタワー東急ホテル(東京・渋谷)『Japanese Cuisine 桜丘』が初のコラボレーションによる「穂の国とよはし・東三河の歴史と食文化のランチセミナー」を開催。『前掛け専門店エニシング』も協賛出店し、西村社長自ら前掛けディスプレイとPRブースを担当してくださいました。

 2023年3月には、エニシングが国内外のデザイナー、アーティスト、ブランド、メーカーとの共に研究・開発するベースメントとなる【ファブリックラボ】を同敷地内にオープン。
 三河〜お江戸でのご縁重なり、七代目佐藤元英社長、佐藤善彦副社長が二川のファクトリー&ラボを初訪問。豊橋発のものづくり対談へとつながりました。

職人の感覚と手技を活かして個性を創出、
エコノミーもエコロジーも実践できる工場に。

佐藤: トヨタグループの豊田佐吉氏やスズキの鈴木道雄氏といった遠州・三河ゆかりの創始者が開発した100年級のシャトル織機が、いまも現役で稼働しているのは、やっぱり圧巻ですね!

西村: ありがとうございます。織機を譲ってくださった芳賀正人さんが、何十年も買い換えることなく全台をメンテナンスをしながら、ずっとそのままで使ってきてくれたおかげです。世界中を探してみても、今日まで稼働しているところはほとんどなく、だからこそ「これはおもしろい!価値がある!」と思い、このシャトル織機を生かした前掛けづくりをPRしていったことが、僕らの今に繋がっています。

写真提供:(有)エニシング
写真提供:(有)エニシング
佐藤: 生産効率重視でなく、稼働が高速すぎないところも、帆前掛け独特の風合いを創り出すには具合がいいんだね。

西村: そうなんです。エニシング前掛けは、通常のセーターの約17倍もの太い糸を使うのですが、それをスムーズに風合いよく織れるのは、スピードが緩やかな古い織機ならでは。“職人の手が入れられる”という点も、古いシャトル織機の大きな魅力ですね。
 もうひとつの大きな特徴が、すべての織機が天井のモーター1台だけでベルトで繋がり稼働しているという点。電気代は月3万円ほどと、「エコノミーかつエコロジー」な面も、欧米で支持される理由となっています。

佐藤: それはすごいね!弊社工場でも、私が生まれる前からの石臼が現役です。今時のかくはん機だと、すり身が滑らかになり過ぎてしまい、食感も均一で“おもしろくない”。職人の目利きと加減ができ、すり身の歯ごたえや個性を生み出せる道具は、やっぱり代え難いです。シャトル織機一台一台も、相当個性がありそうだもんね。

西村: もう全然違いますね!温度や湿度によっても動きが変わってくるので、職人は「音」でだいたい状態がわかると言います。「そろそろ悲鳴をあげてくるな…」と感知して重しを替えるなど、1日に何度も様子を見て調整しています。

写真提供:(有)エニシング
佐藤: 職人を育てるのも、一朝一夕では難しいのでは?

西村: 立ち上げの頃は相当苦労をしました。芳賀さんからは「素人だけはよこすな」と言われましたが、そもそも後継者じたいいないわけですから…(笑)。なんとか工面工夫しつつ、多々の力をお借りして経験を積ませてもらって。若手職人の福田が本当によく頑張ってくれました。

直感を信じ飛び込んだ伝統産業の世界、
ものづくりの生い立ちルーツが起動した。

写真提供:(有)エニシング
佐藤: 私も旧知ですが、芳賀さんは男気のある方ですよね、ちょっと変わってはいるけど(笑)。

西村: 初めてお会いした日に、「君らは息子ぐらいの歳でまだ世間を知らないから言うけど、前掛けなんて絶対に商売にならない、やめた方がいい」と釘を刺されました(笑)。でも僕らにとっては、出会えたのが芳賀さんだったことが100%大きかった。無謀な若者の思いを面白がって盛り上げてくれる気質の人だったから、「いっしょにやろう!」とここまで走ってこられたと思っています。

佐藤: なるほど。私も何年か前に「東京で豊橋の帆前掛けを手がけている人がいる」と聞いた当初は、興味津々だったけれど、「チャラい若者が始めて続くのかな?」なんて思ってました(笑)。

西村: まあ、ですよね(笑)。

佐藤: ところが実際に会って話したら、広島出身で代々ものづくり家業のもとで育ったと。さらに大手菓子メーカーで営業経験を積んだり、先輩企業家からビジネスやマーケティングの薫陶を受けてきた…など、とにかく公私の経歴に驚かされました。

西村: 「鶏口牛後」が家訓のようなもので、「組織の歯車になるのではなく、自分が先頭に立って物事を動かす方が人生は実り豊かだ」という考え方が下地にありましたね。大企業の先輩方の苦労話を聞いて、「そうか!僕ももっと苦労していいんだ!」と(笑)。

佐藤: そういう受け止め方が西村さんのおもしろいところだよね。この三河でも年々繊維業に関わる人が減っていく中で、あえてそれを引き継ぐ。海外の市場ニーズには合い難い伝統産業を、あえて新しい価値観を吹き込んで積極的にPRしていく。そうした攻勢あってか、パリでの欧州最大級見本市「メゾン・エ・オブジェ パリ 2023」でも、相当な注目を集めていましたね。

西村: シャトル織機での製造は、遅いし手間もかかるのですが、伝統のものづくりを重んじ、その稀少性や他に類のない品質を彼らは価値として認めているので、高値で売れるんです。ビジネスの視点で「これは投資に値する」と思えたことが大きいです。

写真提供:(有)エニシング

「おいしいものが出てくる!」とワクワク。
働く父親のカッコいい姿=前掛けだった!?

西村: 佐藤社長は初めて前掛けをした時のこと、憶えていますか?

佐藤: 小学生ぐらいの頃、親父に手伝わされた時だね。まだちっちゃくて、紐を引きずってね(笑)。我が家では親父が魚をさばく時にいつも掛けていたから、「前掛け=帆前掛け」だと思っていました。

西村: へーえ、その頃の写真などあれば拝見してみたいですね!

佐藤: あったかなあ。親父の前掛け姿を小学生の頃版画の宿題で出して、表彰されたことはありましたよ(笑)。

西村: そうなんですか!前掛けをしたお父さんが、カッコいい存在だったんですね。

佐藤: いやあ、そっちよりも、親父が前掛けをしたら「うまいものが食べられる!」って思って。そういう時は遊びに行かず、親父のそばにぴったりくっついていました。

西村: そっか、佐藤家では前掛けが“おいしいもの”の象徴だったんですね。

佐藤: まさにGEN-B(げんびー)の証だよね(笑)。

西村: 職場でも家庭でも、前掛けスタイル。昔の帆前掛けはB to Bのものでしたが、今ではキッチンウェアとして家庭でも使われていますから、先代は先を行っていましたね!

佐藤: 私たちにはごく当たり前だったけどね。親父が毎朝自分でちくわを作って、自分で売りに行っている姿を見てきたから、やっぱり私も店頭に立つのが好き。お客さんの反応や空気もつかめるし。楽しいからやっているだけですが。

ヤマサちくわ七代目佐藤元英社長の父
六代目佐藤元彦さん(2023年1月他界)
西村: 御社ほどの企業規模になっても、社長自ら店頭に立ったり、副社長とおふたりでちくわづくりの実演をされていることに感銘を受けます!その上、豊橋市内の小学校へも「ちくわ教室出前授業」に出向かれるなど、本当にパワフルです。

佐藤: スポーツをやってきたから体力だけはあるんだよね(笑)。自分が身近に魚に触れて、本当においしいものを体で感じて育ってきたから、それを今の子供たちにも知ってもらいたいという思いはあります。魚食文化をいまきちんと伝えていかないと、それこそ失われてしまうので。

● GEN-B 活動レポート


佐藤: 西村さんも、地元二川小学校での出前授業や工場見学・体験を実施されたり、『まちなか図書館&エムキャンパス』(豊橋市)では、144人のクリエイターや豊橋の子供たちがデザインした前掛け展示イベント<100年前掛け展 in 豊橋>を開催するなど、次世代に向けた取り組みを活発にされていますね。

西村: はい、ご縁をいただいた地域への恩返しになればと。実際に前掛けを見て触れてもらえますし、最近は親や大人の仕事を見られる機会があまりないので、ここならいつでも来て見てもらえますしね。ひとり足繁く通ってきて、「1日お手伝いしたい」と言ってくれる小学生の子もいるんです。

佐藤: それは頼もしい!

西村: そんな風に“大人が一所懸命に働いている姿をカッコいいと思える”場づくりも、大事にしていきたいですね。

東海道の地の利は、インバウンドでも魅力大!
自信をもって積極的に豊橋をアピールすべし。

佐藤: 西村さんから見て、豊橋にはどんな魅力がありますか?

西村: 何と言っても地の利が良いですよね。海外からの方が東京から西へ移動するにしても、豊橋は新幹線も停まります。東海道の歴史、ヤマサちくわさんや豊橋産の商品などの“本物の良さ”をきちんと伝えていけば、もっともっと多くの人を惹きつけられる。実際にそれだけのポテンシャルがあります。

佐藤: 西村さんにそう言ってもらえるのは嬉しいね!豊橋、三河の人は、もともと自己肯定感が低くて、自分の街や自社の商品が好いとかあまり自慢をしない。ところが外(豊橋以外)の人に褒められると、調子が上がっちゃうじゃんね(笑)。

西村: そうなんですね(笑)。

佐藤: 豊橋の良いところに目を向けて称賛してもらえると、皆やる気になってもっと良くなっていくはず。エニシングさんが二川に拠点を作られたのも、とてもありがたいことです。東海道でもここまで本陣・旅籠等が現存しているのは二川宿だけですし、観光面含め、今後の地域活性にもますます期待しています。

西村: やっぱり、時代の変化によって人の心も変わっていきますから、その変化に応じて発信する情報も変えていかないと何も伝わりません。前掛けもそのひとつ。コロナパンデミックを経験し、ヨーロッパでは「サスティナブル」「エシカル」をより盛んに意識する傾向にあります。帆前掛けは、そもそもトラディショナルかつそうした要素を持った商材ですから、今の空気にしっかりとチャンネルを合わせてアピールすることで、思いも伝わるし、ものづくりへの共感からも広がってくのだと思います。

佐藤: 同感です。言葉だけが先歩きをしても、本質は伝わりにくい。それに自分が「おもしろい」と思えないことは、結局やりたくないですしね。

西村: わかります。僕も高杉晋作の辞世の句「おもしろきこともなき世をおもしろく」を掲げて、脱サラしてものづくりの道を歩んできたので。もともと「人間は人間らしくありたい」という思いが根底にあって、「マネーゲームばかりじゃおもしろくないでしょ」「本来は農業や狩猟みたいに身体を動かして生きることが人間としての健全なあり方だよね」なんて話すと、フランスの若い経営者たちにも響いてくれるようです。

写真提供:(有)エニシング
佐藤: エニシングの「ANYTH縁ING」という考え方、ネーミングも良いよね。

西村: 当社の理念です。従業員もお客様も、「法人」という組織の表面的なところではなく、個人と個人の「好き」や「思い」が集まり、エネルギーとなって縁をむすんでいく。そうした“エネルギーのバリュー”が、本物の価値を生んでいくものだと思っています。

佐藤: 「これが好き!」「これがおもしろい!」と本気で思って行動すると、共感が集まって何かできちゃうんだよね。

西村: ヤマサちくわさんの活動やイベントがまさにそれじゃないですか!セルリアンタワー東急ホテルの際も、福田総料理長はじめ“好きを極める”プロフェッショナルが集まって、適材適所で役割を果たすことで、あれほどの素晴らしい会ができてしまう。マーケットや売り上げが先でなく、「好き」がスパークしてそれが実績や活性につながっていくというのを、企業として実践されているのがすごいなあと。

佐藤: そこは会社の成長とともに、やっぱり規模や目線、発想も変わっていくものですから。これからのエニシングさんの活躍も、とても楽しみにしています。

西村: ありがとうございます。個人と個人の響き合いから生まれるのが「縁ing」。出会いから得る全てが学びだと思っています。前掛けを軸にさらに頑張っていきます!

<エニシング 前掛けファクトリー&ファブリックラボ見学会を開催!>
2023年7月29日(土)15:00〜18:30

100年前のTOYOTA、SUZUKIなどのシャトル織機が動くエニシング工場見学会&新たにオープンしたファブリックラボの半期(7月・12月)に一度のオープン見学会を開催します。

イベント内容:工場見学および、ファブリックラボでの生地、および商品販売

参加無料:15時~18時30分の間で、ご自由にお越しください。入退場自由です。
当日は19時~ 旧東海道「二川宿街並み」にて、灯篭祭りも開催されますので、併せてお楽しみいただけます。

[詳細・お問い合わせ]



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