KURATA PEPPER Co.Ltd./株式会社クラタペッパー 倉田浩伸(2025.02.10)
大粒のホールをガリッガリッと、ほんの数回ミルで挽くだけで、なんとも深みのある芳香が鼻をくすぐる。まるで香木「伽羅」のようとも喩えられ、一口はこぶごとに刺激だけではない、フルーティーな辛みと爽やかな味わいが料理を引き立てます。
「胡椒がこんなに美味しいなんて!」とそれまでの概念を変えてくれたのが、カンボジア産KURATA PEPPERのオリジナル〈完熟胡椒/ライブペッパー ®〉。“赤いダイヤ”とも呼ばれる世界随一の極上の完熟胡椒は、一房に数粒のみ実らせた特大サイズの果実を樹上で完熟させ、一粒ずつ手摘みで収穫、さらに天日乾燥することで、その甘みを凝縮させます。
「かつて世界一美味しいと謳われたカンボジア産胡椒を、もう一度蘇らせたい!」と、内戦で荒れ果てたカンボジアの地で、熱い思いを胸に1994年に創業。苦境を乗り越え、不撓不屈(ふとうふくつ)の志でたった3本の苗から700年続く伝統農法による無農薬有機栽培を見事に復活させた日本人が、KURATA PEPPER代表・倉田浩伸さんです。
三重県出身、愛知県在住で、長年カンボジアと日本を行き来し、現地ではコッコン州にて自社胡椒農園、プノンペンにて胡椒専門店を経営。また、この美味しい胡椒をさらに広めたいと、由紀夫人が日本での販売を担うなど、夫婦二人三脚でKURATA PEPPERを運営しています。
国内外の多くのメディアでも多く紹介された、その稀代の復興物語については、この記事の〈前編〉をぜひご一読ください。
倉田さんがとことんこだわったのは、「安全で高品質な胡椒を生産する」こと。長年の尽力により、カンボジア産胡椒はその優れた品質が日本はじめヨーロッパ諸国でも認められ、その評判も市場もぐんぐん広がっていきました。2011年にカンボジアオーガニック協会よりオーガニック認証を取得。当初1haほどだった農園は、現在約6ヘクタール(東京ドーム約4.7ha)にまで拡がりました。
もともと「人的支援」がしたいと一念発起し、カンボジアで胡椒産業が育つことを目的としてきた倉田さん。「カンボジア経済の発展の底上げになれば」と、現地の農家に、苗はもちろん伝統農法や経験したノウハウも惜みなく提供し、指導を重ねました。その結果、カンボジア全土でわずか20tほどだった生産量がこの20〜30年で約1.6万tにまで増え、生産農家の数も30世帯から3300世帯へ!ひとりの日本人の草の根が、世界TOP5の生産国へと成長したのです。まさに救世主といえましょう。
世界的にもその名を知られるようになったKURATA PEPPER。この世界一美味しい胡椒に出会い、その豊かな香りと風味にまさに一目惚れをしてしまったのが、食いしんぼうGEN-B代表ヤマサちくわ七代目 佐藤元英社長でした。
社長自ら商品を考案し、職人として仕込みまでしてしまうだけあって、この“魅惑の胡椒”とちくわとの開発企画は、すぐさま発動!2018年には、ヤマサちくわの人気商品〈豆ちくわ〉をベースに、KURATA PEPPERとのコラボレーション商品〈黒胡椒豆ちくわ〉が誕生しました!
おつまみにもぴったり、ビールとよく合う!限定販売するやいなやたちまち人気商品に!さっそく定番化され、さらに東海道新幹線のおつまみとして黒箱入りも登場!また、季節限定〈枝豆くん〉や七代目オリジナルの〈社長の手作りセット〉にも贅沢に使われるなど、新鮮で旨味のしっかりある練りもの×ペッパーのスパイシーな味わいで大好評を得ています。
そんな出会いと、「KURATA PEPPER×ヤマサちくわ」の誕生秘話などについて、ヤマサちくわ直営店『広小路でんでん』にて、ペッパーたっぷりのちくわ炭火焼を楽しみながら語っていただきました。
佐藤: | 最初に倉田さんにお会いしたのは、2016年6月に名古屋栄三越で開催された催事「〜世界と日本のフェアトレード~やさしくありたい私のために〜」でした。 |
倉田: | そうです。KURATA PEPPERのブースにいらっしゃって、「全種類買っていきます!」と、完熟黒胡椒・黒胡椒・白胡椒をご購入いただきました。 |
佐藤: | さっそく家で肉を焼き、ミルでガリガリ挽いた時の香り!そして口に入れた時に広がる味わったことのない美味しさに驚きました。なんだ、これは!と。 |
倉田: | 「とても美味しかったよ!」と、会期中すぐにまたご来店くださいましたね。 |
佐藤: | そう、あまりに美味しかったので、買い足さなくちゃと(笑)。香辛料、特に胡椒はよく使うのですが、倉田さんの胡椒は、まずもう香りが全然違う!胡椒の概念が大きく変わりました。日本でそれまで一般的に流通し、使われてきた胡椒とは、まるで別物だと感じました。 コーヒー豆と同じだよね。インスタントコーヒーが日常的だったところに、豆から挽いたドリップコーヒーを飲んだ時の驚きに通ずる、強いインパクトがありました。 |
倉田: | ありがとうございます。さらにその翌年(2017)に、なんと佐藤社長がカンボジアのプノンペンにあるうちの営業所にも来てくださったんですよね! |
佐藤: | ちょうどカンボジアから研修生を受け入れることになり、そのための出張で訪れた折りに、そうだ!と倉田さんのことを思い出し、ご連絡をして伺いました。女性スタッフが英語で案内をしてくれましたよ。 |
倉田: | カンボジアの女性はしっかりしていて、ほんと頼もしいんですよ!あちらでのまさかの再会は、とても嬉しかったです。 |
佐藤: | 「胡椒にこういう香りや風味があるんだ!」と知って感動し、すぐに「これは使える!」と商品を思いつきました。弊社の定番商品〈豆ちくわ〉ならそのまま食べられ、黒胡椒の風味をダイレクトに感じられますから。これまでも一味や生姜など、いろいろなフレイバーで作ってきましたしね。 ただ、胡椒の風味を引き立てるには、ちくわの焼き皮は作らない方が美味しいだろうなと思いました。ペッパーが見えなくなってしまうし。 |
倉田: | ああ、なるほど!それもそうですね。とにかく、2016年の6月に初めてお会いして、翌年にカンボジアに来ていただき、2018年にはもう〈黒胡椒豆ちくわ〉として商品化されていましたから、めちゃくちゃ早い展開でしたねえ。 |
佐藤: | 超スピード婚(笑)。ほんと、これに関してはほとんど何も悩まず。黒をベースにしたパッケージ(通称:黒箱)も早々に決まりました。 |
佐藤: | 完熟胡椒の風味はもちろん素晴らしいのですが、商品化にあたっては、コスト面も含め、黒胡椒ならより多く使うことができるし、それがひいてはカンボジアのビジネスを応援することにもなるだろうと考えました。 |
倉田: | 本当にヤマサちくわさんには定期的に多くの量を使っていただいて、とてもありがたいことです。 |
佐藤: | PRのタイミングは難しかったですけどね。新幹線の手土産向けにと黒箱入りが登場したのが2019年。ちょうどコロナ禍に突入していった頃で、以後どんどん移動制限などで駅や空港での販売・PRが十分にできない状況でした。 2020年2月は、まだギリギリで東京にて『ヤマサちくわ1DAY POP-UP SHOP in 京橋』が開催でき、『KURATA PEPPER』のブース販売とコラボ商品〈黒胡椒豆ちくわ〉のお披露目がかないました。 |
倉田: | ちょうど2019年に初のレシピ本『THE KURATA PEPPER』(株式会社小学館)を上梓したばかりで、著書もディスプレイして〈黒胡椒豆ちくわ〉を販売していただきました。初デビューがお江戸! |
佐藤: | ペッパーと出会った後に、倉田さんがどうしてカンボジアで胡椒の生産を始めたのか、その経緯やご苦労を知り、さらに驚いて感銘を受けて。よけいに貴重で美味しいものになっちゃいました。 |
倉田: | ありがとうございます。その頃「日経スペシャル 未来世紀ジパング(テレビ東京)」や「マツコの知らない世界~こしょうの世界(TBS)」などメディアでも紹介していただき、「本も買ったよ!」という方も増えてきました。 |
由紀: | 東海ラジオの「1時の鬼の魔酔い」でも、さだまさしさんが〈黒胡椒豆〉を「胡椒が効いていて美味しい!」と気に入ってくださいましたね。 |
佐藤: | 胡椒を使った商品はそれまでにもあったのですが、胡椒の香りが飛んでしまいやすく、異物感だけが残って食材を引き立てるまでに至らなかったんです。KURATA PEPPERの黒胡椒は、普通の豆ちくわに入れてもとても美味しいし、しっかり噛むほどにその香りの豊かさを楽しめるのが人気です。 今日はおふたりに、ペッパー入りの炭火焼ちくわを召し上がっていただきます。 |
由紀: | わあ、それは楽しみです! |
佐藤: | 倉田さんのご尽力あって胡椒を栽培する農家も増え、今ではカンボジアの空港やおみやげ屋さんに行くといっぱい並んでいますよね。でも一見同じような包装だけれど、買って食べてみると倉田さんのペッパーとはやっぱり香りも味も全然違う。一体何が違うのでしょうか? |
倉田: | 原苗はもともとうちから流通されていったものなので同じなのですが、作り方が違うんです。特に収穫後の加工の仕方。例えば殺菌について、彼らはぐつぐつと沸騰したお湯にざっと浸けて表面を殺菌してから乾燥させるんですね。ただ、そのやり方だと殺菌はされるのですが、だしを取るのと同じで、香りも旨味も流出してしまう。 うちでは、スタッフは手袋・マスク着用のもと、用具も全てアルコール消毒するなど極力菌がつかないよう配慮し、水洗いをしてから天日で干します。一粒一粒選別をし、さらにスチーム洗浄をして再び天日干しをします。 |
佐藤: | たしかに煮沸処理は衛生的ではあっても、美味しさは半減してしまいますね。弊社では水分活性を調整のもと、真空状態で熱殺菌をした胡椒を練り込み、さらに火を通して仕上げるため、まったく問題はありません。香りも風味も損なうことなく活かせます。 |
倉田: | 収穫についても、胡椒の基本は手積みであっても、その後の加工・選別の機械化はどんどん進んでいます。うちはすべてにおいて手作業ですから、そういう点も含めて付加価値となっていくんだと思います。 |
佐藤: | 付加価値で言うなら、〈完熟胡椒/ライブペッパー ®〉。こそ、世界で唯一KURATA PEPPERのオリジナルですよね!あの魅惑的な風味は、どのようにして生み出されるのですか? |
倉田: | 胡椒はつる性の植物で、高さは3~4mほどになり、果実はぶどうの様な房状になります。収穫ができるまで5〜6年かかります。白い小さな花が咲くとシュモクバエが寄ってくるのですが、舐められたところは実がつかなくなってしまうんです。他の農家ではそこで農薬をかけるのですが、うちでは無農薬である程度放置します。これが摘果と同じ役割を果たしてくれ、その分実が大きく育つというわけです。おもしろいでしょう? |
佐藤: | へええ、それはまさに自然の摂理を生かしての栽培法ですね! |
倉田: | 通常は一房に20~30粒ぐらい実るところ、ほんの2~3粒しか採れず、1本の樹から多くても500粒ぐらいという、とても貴重な胡椒なんです。 |
佐藤: | この完熟ペッパーを味わうと、正直に言って他の胡椒が食べられなくなっちゃうよね。特にステーキ屋さんではぜひ使ってもらいたいなあ。 |
倉田: | 胡椒も手間ひまをかければかけるほど、やっぱ良いものができてくるから、どんどん手間をかけちゃうんですよね。でも、カンボジアの農家からしたら、「そんなのとてもやっていられない」ってなるでしょうし(笑)。どこまで手間をかけていいのかっていうところを最近悩みます。 |
佐藤: | やっぱり商売ベースで考えるとね。やっぱりこの価値を認めてくれるところは良いけれど、そこだけではやっていけないわけですし。 |
倉田: | ある程度数も売らなければ売り上げにならないし、農家の収入の安定や現地での経営も支えていけませんから。 |
由紀: | 日本での家族の暮らしもありますしね(笑)。また近年はコロナ、円高、気象変動…次から次へと追い討ちをかけてきて、価格の面でもお客様に迷惑をかけないようにと努力はしていますが、厳しい情勢ではあります。 |
倉田: | そういうことが突きつけられてはいるのですが、ほら、やってるとどんどんおもしろくなるから、ついつい手をかけちゃって(笑)。 |
佐藤: | そこは私も同じ気質だからわかるけど(笑)。やっぱり他にはない美味しさとおもしろさがあるからねえ、「社長の手作りセット」がどんどんクラタペッパーばかりになっていきそう。 |
由紀: | 私たちは昔からヤマサちくわさんの商品が大好きだったので、うちのペッパーを使ってコラボしてくださることになって、本当に嬉しかったです! |
佐藤: | 料理人はわかってることなんだけど、調味料に良いものを使わないと料理が死んじゃうんですよね。調味料もまた「素材」なので、多少高くてもちゃんと吟味したものを使いたい。ヤマサちくわの焼き色を生む三河みりんも同じ。それにね、良い調味料を使えば美味しくなるので、少量で済むんですよ。 |
倉田: | そうなんです!胡椒もやっぱり、辛みも旨味もしっかりしていれば、少量でいい。風味があまりないとたくさんかけてしまって、結局大量に消費しかねません。 1袋50gで1,200円〜だなんて!と高いように思えるかもしれませんが、良いミルで挽いて1回1粒として30円ぐらい。コンビニの一粒チョコと同じくらい(笑)。30円で料理が全体が美味しくなるなら、お肉のグレードを上げるより、胡椒のグレードを上げた方がお得かもしれない。 |
佐藤: | レストランのトリュフの別がけとか、パクチー別盛りとか、オプションとしての価値があれば、有料でも使いますもんね。そういう価値と、その背景にあるストーリーも含めて、きちんと伝えていくことも大切かなと思います。 |
ヤマサちくわ名物〈ちくわの炭火焼〉にもKURATA PEPPERがメニューに登場!倉田さんの腰元から、まるでガンマンのように素早く、ガリッガリッガリと“追いベッパー”。和食にも、すっかり欠かせない存在です。
佐藤: | 最近食べて美味しいなと思ったのが、緑色の生胡椒です。KURATA PEPPERの〈生胡椒のしょうゆ漬〉と〈生胡椒の塩水漬〉。刺身やおでんにトッピングしても美味しいよね。これは生の胡椒をカンボジアから? |
倉田: | そうです。花が咲いて房に実がつき始めた頃の若い生の胡椒(クラタペッパーの緑胡椒 ®)を房から外して、真空パックにして空輸しています。すぐにアクが出てきてしまうので、そのフレッシュな実を、しょうゆ漬は〈弓削多醤油の木桶仕込み有機醤油〉と〈角谷文治郎商店の三河みりん〉だけで煮あげています。 胡椒を生で食べる文化って、カンボジアしかなかったのですが、今はタイでも真似をして、生の房ごと入れた炒めものとか結構ありますね。 |
佐藤: | タイはそういうトレンドはすぐに取り入れて、流行りますね。ベトナムのフォーの中に入れても美味しそう。胡椒はまだまだ新しい食べ方がいろいろありそうですね。 |
倉田: | そうですね。そういう商品化もこれからはもっと積極的に取り組んでいきたいですね。カンボジアでの農園は、彼らが独立採算でやっていけるところまでサポートしてきたし、自分としては日本で自分の事業も家族も支えていける独立した動きが必要かなと。 |
由紀: | カンボジアの人たちと一緒にKURATA PEPPERが大きくなっていけたらいいなと思うし、倉田も一人で頑張ってきたけれど、彼らもやっぱり時代や状況の変化で考え方も変わってきますから。 |
佐藤: | 由紀さんとの二人三脚でやってきたことが、また次の新たなフェーズに向かう時なのかもしれないですね。 |
倉田: | そもそも700年間続いた胡椒栽培繋が途絶えていたのを、再び復活させて、「カンボジア産胡椒」として世界的にも知名度は上がったわけで。起業の理念だった「戦後復興の礎になるための産業を創りたい」という志は、達成できたと思っています。 ヤマサちくわさんは2027年に創業200年だそうですが、カンボジアはまだ100年企業すらなく、KURATA PEPPERの30年でも長い方です。 |
由紀: | 30年、続いたよね。 |
佐藤: | 凄いですね。 内戦が終わってまだ40年も経っていない、その間に胡椒産業をここまで復興させたことは、本当に尊敬します。 |
倉田: | 好きだからやってるけど…「趣味みたいなもんですよ」というと、怒られる(笑)。 |
由紀: | ほんと!それ!(笑) |
佐藤: | 「鉛は金に変わらない 」、良いものを良いと信じて作り続けるものどうし、これからもお客様に喜んでいただけるおもしろいコラボを一緒にやっていきましょう! |
倉田・由紀: | はい、よろしくお願いします。乾杯! |
“命をつないできたひと粒”と言ってもいい、カンボジアの至宝『KURATA PEPPER』。日本の食の文化を、ますます美味しくクオリティアップしてくれるGEN-Bにとっても特別なスパイスです。他にはないヤマサちくわとのコラボレーションを、これからもお楽しみに!