旬のひと・もの・こと特集

第2回 酒造り

福井酒造「四海王」(2019.01.23)

【福井酒造株式会社】
愛知県豊橋市中浜町214番地

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東三河母なる川・豊川の恵みのもと、
伝統と革新のハイブリッドな酒造り。

写真提供:福井酒造

水豊かなところに、旨い酒あり。
豊橋屈指の銘酒といえば、『四海王』。

 古より「「穂(ほ)の国」と呼ばれた東三河には、愛知県北東部の設楽町・段戸山(標高1,152m)に源を発する一級河川「豊川(とよがわ)」が脈々と流れています。
 2018年に通水50周年を迎えた豊川用水は、この豊川を主な取水源としており、豊富な水量と温暖な気候によってこの地域を全国屈指の農業地域へと発展させてきました。平成15年には、国土交通省による「全国一級河川の水質調査」において、166河川中全国1位となり、「日本一の清流」とも謳われました。

写真提供:福井酒造

 この豊かな水源に恵まれ、東三河で百余年の歴史を刻んできた老舗酒蔵「福井酒造株式会社」。創業は明治45年(1912)、初代・福井盛太郎が渥美郡(現在の田原町)福江にて、三河の国・大垣新田藩戸田家陣屋跡を拝領し、その家紋入りの井戸で酒を仕込んだことに始まります。以来、一貫して手作業を基本とした丁寧な酒造りを継承。『四海王』の銘柄で全国にも広く知られるようになりました。

写真提供:福井酒造

違いのわかるミネラル分豊富な水軟水、
吟醸酒好適米で仕込む、「豊橋の地酒」。

 昔から旨い酒造りに欠かせないのが、「水」。福井酒造では、急流で酒造りに最適な水系として知られる天竜川と、水質日本一にもなった豊川を源流とするバランスの良い軟水を酒造りに利用しています。
 地下102メートルから汲み上げた軟水は、豊富なミネラル分を含み、一口含んだだけでその違いは明らか。

 「しっかりとした厚みのある味わいがありながら、喉ごしがかろやかで、飲みやすい。酒造りに最適な水に恵まれたことが、弊社の酒造りを支えてきました」と、5代目代表の福井知裕社長。

 さらに、酒米も地元オリジンにこだわる。山田錦をベースに豊橋市石巻山の山裾で契約栽培された吟醸酒用好適米「夢吟香(ゆめぎんが)」を100%使用した特別純米酒『夢吟香』を開発。田植えから社員が一緒に行うなど、地元の米、地元の水を活かした“豊橋ブランド”となる酒造りを追求しています。


写真提供:福井酒造

創業百余年の酒造りの歴史と技術を
次代へと伝え継ぐための挑戦とは。

 そうした素材の恵みに加え、同社が力を入れてきたのが、未来を見据えた「酒造システムの革新」。
 昨今の地酒・酒蔵ブームもあり、機械化による大量生産よりも、「昔ながらの製法」や「蔵つき酵母」などにスポットが当てられがちですが、福井酒造では、「伝統とは古き力を克服する新しい魂なり」という標語のもと、昔ながらの酒造りの製法にこだわりつつ、その工程を見直し、最新技術を利用した〈FOP式酒造システム〉を自社で開発・設計し、機械も製造。

 従来は、米は蒸して窯から取り出し、平らに伸ばしながら冷やして発酵用タンクに移す工程を全て手作業で行います。ところが、同社の新システムでは、「蒸す」のではなく、特殊構造のタンクで「煮る」。そのままタンク内で冷却もできるため、省スペース、省労力化に加え、より衛生的な製造環境へと進化したそうです。
 「タンク内の温度を一気に沸点近くまで上げる高温強火炊き酒造りシステムでは、特許を取得。開発に至るまでは5年以上も試行錯誤を重ねましたが、非常に効率の良いシステムが実現しました」と、赤井知久会長。


写真提供:福井酒造

写真:三河GEN-Bの旅

 もともとは、各地の優秀な杜氏たちの高齢化に悩み、また、通年して安定した酒造りができないかと考えたことがきっかけだったといいます。

 昔ながらの製法にこだわりつつ、新しいシステムも導入する。赤井会長曰く“頭を使った酒造り”への挑戦、柔軟な酒造りへの取り組みが評価され、これまでに「全国新酒鑑評会」で7度金賞を受賞。「機械化=手抜き=質が落ちる」といった既成概念を覆し、個性豊かでふくよかさと華やかさを併せ持つ、魅力的な酒造りを成功させました。

日本の酒造りの粋を極めた、
中国人杜氏による「旨し酒」。

 こうした福井酒造の挑戦を進化、成功へと導くに至ったのには、「中国人杜氏 王砿生さんの存在が大きい」と、赤井会長。昔は15人、少なくても8人の杜氏が必要だった酒造りを、現在は王さんを中心にわずか3人で管理しているそうです。


写真提供:福井酒造

 「“酒の味を変えたければ杜氏を変えよ”と言われるほど、良い酒造りには杜氏という“ひと”の力が何より重要。いくら機械が高性能であっても、それはあくまでも道具であり、それを使う人の経験や勘所、何より人柄に勝る技術はありません。酒造りは特に温度管理によって出来が変わるものですが、それも杜氏の腕次第。私がこれまで見てきた中でも、王さんの右に出る杜氏はまずいない!と自負しています」と、力の入る赤井会長。

 「日本人以上に日本人らしいお人柄で、酒本来のおいしさを引き出してくれる達人なんですよ」と福井社長も太鼓判を押すほど。日本の酒造りの匠として力をふるう王さんの研鑽なくして、東三河の銘酒は生まれません。

 扱いも味わいもごくごく繊細な日本酒と100年にわたり向き合ってきた、福井酒造のノウハウ。職人の目利きによる丁寧な仕込みと、機械化によるコストパフォーマンスとのバランスを製造ラインに巧みに活かすハイブリッドな取り組みは、まさに100年企業ならではの視点。毎年新酒の口開けとなる3月には、蔵開放イベントも開催されます。ぜひこの機会に味わってみてください。


写真提供:福井酒造

 東三河の自然と東三河人の取り組みが生み出す豊かな味わいは、食も酒も生き生きとした「マリアージュ」を醸成し、いま各地で注目を集めつつあります。GEN-B交流会でも、東三河の伝統と革新の味を様々なスタイルで味わっていただける機会を企画していきます。ご期待ください。


● 「第1回 三河GEN-Bの旅」活動レポート


● 「GEN-B交流会」活動レポート


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