活動レポート

第8回『豊・食・人 GEN-B』交流会

「~江戸から続く手仕事と魚旬暦を楽しむ~その八」

開催日 2024年11月30日(土) 16:30受付〜20:30終了
場所 如水会館(東京會舘)日本料理 橋畔亭
東京都千代田区一ツ橋2-1-1
https://www.kaikan.co.jp/josui/restaurant/kyohantei/
お話 ヤマサちくわ株式会社 七代目 代表取締役 佐藤元英
https://yamasa.chikuwa.co.jp/

東京會舘 日本料理顧問 鈴木直登
https://www.kaikan.co.jp/

『豊・食・人 GEN-B』の発足から7年! 日本料理の粋、料理人職人の技を味わう。

 三河武士・徳川家康が慶長8年(1603年)に江戸に開府し始まった江戸時代は、慶応4年(1868年)まで約260年間。かつて東海道の三河国吉田、現在の豊橋で文政十年(1827年)に創業し、豊橋名産となった「ヤマサちくわ」は、まもなく創業200年。箱根を越えてお江戸でも、“三河のうまいもん”を知ってもらい、ともに豊かに食べ、愛で楽しみましょう!と発足したのが、この『豊・食・人GEN-B』です。
 2017年に記念すべき第1回の交流会が開催された『如水会館(東京會舘)日本料理 橋畔亭』にて、霜月晦日に「~江戸から続く手仕事と魚旬暦を楽しむ~その八」が開催されました。

 この会のテーマ“江戸から続く手仕事と魚旬暦”として、2022年に100周年を迎えた迎賓館『東京會舘』にて半世紀にわたり料理人として第一線で活躍されている鈴木直登日本料理顧問に、「すり身を使った料理」や「ちくわ・かまぼこ」を紐解いた冬の献立をご用意いただきました。

 ヤマサちくわの厳選すり身や練りものの魅力を理解してくださっている鈴木顧問ならではの豊富な経験や知識から、2025年のお正月迎えに向けたハレの料理のヒントについてもご指南いただけるとあって、お江戸はもちろん、さらに東西遠方からもGEN-Bの皆さんが集まってくださいました。
 もちろん、GEN-B交流会といえば!欠かせない〈炭火焼きちくわ〉もコンロを持ち込んでご用意。お飲み物は、東三河・豊橋のとっておきのお酒をお楽しみいただきました。

● 鈴木直登氏 プロフィール

1953年新潟県生まれ。1974年より東京會館『日本料理 八千代』に勤務。日本料理総料理長、調理・製菓部部付部長を経て現在日本料理顧問。
「現代の名工・江戸の名工」として江戸料理の研究などでも活躍。
2009年 東京都優秀技能者「東京マイスター(江戸の名工)」
受賞/2013年厚生労働省「卓越した技能者(現代の名工)」
表彰/2014年文化庁長官表彰2019年 黄綬褒章受章
著書「東京會舘おせちと節句料理」(2012 平凡社)/「料理人生五十年 鈴木直登 」(2023)

GEN-B旬のひと・もの・こと特集
第7回 ハレの日本料理 東京會館「八千代」 和食総料理長 鈴木直登さん

第1回『豊・食・人 GEN-B』交流会
「〜江戸から続く手仕事と魚旬暦《おでん》を楽しむ〜その壱」

第2回『豊・食・人 GEN-B』交流会
「〜江戸から続く手仕事と魚旬暦《おでん》を楽しむ〜その弐」

三河から江戸へ、さらには信州へも流通 先人の知恵と精神を生かしたものづくり。

 佐藤社長から、まずは魚の美味しさを生かした“ほんもの”のちくわや練りものについてお話いただきました。

 東海道五十三次で江戸日本橋から34番目の「吉田宿」、徳川譜代の吉田城があり、宿場町・城下町として栄えてきた豊橋。さらに豊川の舟運や伊勢詣での船旅の湊町としても賑わい、絹や米を運んだりと交通の便に恵まれた地でした。
 山も海も近く、太平洋・内海、浜名湖など食材が豊富であり、また徳川家康公のおかげで、東海道を通じて米・味噌・醬油・酒と醸造文化が発達するなど、三河の食文化に大きな恩恵を与えてきました。

 今川義元が1553年(天文22年)に片浜十三里の魚を三河吉田の魚町の飽海熊野(あくみくまの)神社(現在の豊橋市魚町)社頭で売ることを許したことから、様々な店が集まり、食文化豊かな土地へと発展。ヤマサちくわも魚問屋から始まり、江戸後期にちくわをつくりはじめ、そこから約200年代々続き現在に至ります。

佐藤: もうひとつの流通経路は、南信州飯田へと運ぶ「塩の道」。海産物のない地方へ、三河湾で採れた塩を運ぶ際に、塩の木箱に一緒にちくわを入れたそうです。縦に入れると穴にも塩が詰められ、水分が塩に吸収されカチカチに硬くなるため、腐ることなく魚肉を運ぶことができた。短く細くカチカチになるんですが、水で戻すと塩が抜けて美味しく食べられるという先人の知恵です。
 今日は鈴木料理長からのリクエストで、その塩漬けちくわをご用意しましたので、ぜひお楽しみに!

 七代続いたヤマサちくわの「鉛は金に変わらない」という精神についても、技でごまかすのではなく、材料にこだわることの大切さを具体的な事例とともにレクチャー。

美味しいちくわや練りものに欠かせない白身の魚、えそ、ぐち、はもについての旨みや鮮度の特徴。
毎朝産地から届く新鮮な魚を自社で職人が捌き、豊富な水による“水晒し”などの工程について
大型機械で均一に刻み潰すのではなく、凹凸のある御影石の臼で、職人の目利き・調整のもと擂潰(らいかい)することにより、多様な噛みごたえや舌ざわりのテクスチャが生まれる点。
つなぎに使う馬鈴薯でんぷんも、昔から日本で最高級のものを北海道から取り寄せ使用。あのキツネ色の焼き色には、そのまま飲んでも美味しい三河みりんが欠かせないことなど。

佐藤: すり身の擂潰を任せられるようになれば、「職人として一人前」と言われるほど。その日の温度、湿度、魚の状態などによって微妙に練りの速度や時間を調整し、指先と目で粘りを判断して丹念に擂潰することで、アシ(弾力)が変化に富み、心地よい食感が生まれます。
 市販の多くの練り製品は、大手の水産加工メーカーから冷凍すり身を購入しているため、どうしても素材や味の個性が均一化してしまうんですね。当たり前ですが、季節ごとに獲れる魚が違う、使う種類も違うので、ヤマサちくわではその時期に合わせた素材を活かしたちくわづくりをしています。それがやっぱりつくっていておもしろいし、魚食日本ならではのほんものの練り製品かなと思いますね。

しみじみと味わう、日本本来の“地味”。 失われゆく自然と伝え継がれる味の間に。

 鈴木氏からは、この日のお献立の説明と、料理にまつわる様々な食文化や食材、調理法の由来や工夫、ひいては環境と私たちのつながりなどについても、たっぷりとお話いただきました。
 それぞれの料理名や調理法にも意味があるものばかりで、一品ごとにじっくりと聞けば聞くほど、その料理の味わいが深く増します。先人の素材を大切にする知恵、江戸や明治の料理人の粋な演出や、洒落などお客様の楽しませ方の工夫に、皆さんも深く頷いては感嘆しきり。時にユーモアたっぷりに笑わせ、時に真摯に未来への警鐘を鳴らすお言葉など、現代の名工の智の懐は、やはり海ほどに深く胸に響きました。

鈴木: 今日はまず、ちくわの塩漬けを使った特別な一品から味わっていただきます。ちくわはもともと抗菌作用のある竹の棒にすり身を巻きつけたものですが、それを塩漬けにすることでさらに保存度が高まり、遠路であっても腐敗を防ぐことができたんですね。
今日は4日間塩漬けにしたものを洗い流し、細かく切って野菜との煮物椀にしました。伊那の名物ですが、素朴でしみじみとした“哀愁のある美味しさ” (笑)。これが本当の日本の味、って感じますよ。

御献立

塩漬けちくわと大根の煮物椀
一、 熱燗肴 子持鯛焼 霜降ほうれん草 焼鱧つけ焼
一、 初冬の彩り 裏白椎茸 里乃芋 紅鮭小川〆 銀杏打餅 山茶花百合根
一、 紅白かまぼこと限定わさび漬
一、 雪鍋 三色摘入れ 帆立貝 雲丹 海老
一、 山の幸 火取サーモン オイル醤油
一、 精進肴 蓮根しん薯 雷揚げ
一、 こんろ 越後焼 豆腐
一、 湯けむり 蟹蕪菁蒸 時雨あん
一、 江戸の名物 おかめそば 湯葉 三つ葉 蒲鉾 柚子
一、 甘味 かまぼこ

旬ごとの自然と見立ての粋に眼福口福! 和みの食の豊かさに感謝の年の暮れ。

 最初に特別に供された塩漬けちくわの椀物に、「おだしごと美味しい」「ちくわの弾力がしっかり」と好評で、ほっと和む味わい。「熱燗」と冠された肴三種、塗りの縁高に愛らしく盛り込まれたお料理と、冬景色を感じさせるあしらいが心に沁みます。

 日本酒は豊橋の福井酒造〈四海王〉から2種、初めお披露目となる4ヶ月特別な樽に寝かした特別仕込みのお酒をご用意しました。食中酒には、福島県只見生まれ、ねっか奥会津蒸留所〈米焼酎 ねっか〉。日本酒のような吟醸香をお楽しみいただきました。

鈴木: 鯛は古来からハレの日の食べもの、子持はさらに縁起物ですね。ほうれん草は今は年中出回っていますが、霜が降りてきた今時分からがいちばん旨くなるので、“霜降”に見立てて。はもは皮の部分にすり身をつけて焼いてあります。
椎茸は裏が白いから「裏白」。日本人の食事では、“白いもの”が最上の食べ物とされてきたんですね。だから私はごはんも白米しか出しません。炊き込みご飯などは(日常的に食べる)“糧飯”なんです。

 和食がユネスコ無形文化遺産に登録されて久しいですが、日本人でさえ知らない知識や知恵はまだまだたくさんあります。たとえば、紅鮭に新鮮なすり身を巻いて酢で〆た「小川〆」。鈴木氏曰く、「火も入ってないが、生でもない。これを山でもない、海でもない、その間を流れる小川に由来している」とのことでした。

 その他にも、三種のつみれに大根おろしをみぞれに見立てた〈雪鍋〉、ちくわのすり身を竹に巻きつける時の包丁とまな板のトントントンという音が、「越後獅子」の踊る足拍子に似ているから「越後焼」。皆さんが炭火で焼き上げたちくわも、鈴木氏の手にかかると、笹の葉が添えられ、豊橋名物「とうふ田楽」とともに風趣あふれる一皿に変わります。

 江戸の粋を伝える〆の一品は、赤いかまぼこで紅をさしたおかめをあらわしたお蕎麦が登場。最後のデザートは、その名も「かまぼこ」。練りものが出てくるかと思いきや!?なんと、ちくわの起源である“蒲鉾”の語源「がまのほ・蒲の穂」の形にお米を搗いて焼き、「蒲の穂=かまぼこ」に見立てたおぜんざい!最後まで日本料理の“洒落”と技が息づくお料理に、「ほーっ」「へぇー」の連続でした。

 鈴木氏の含蓄のあるお話に加え、年末年始のおせちの由来やかまぼこの味わい方など、ゲストからも途切れることなく質問づくし。ひとつひとつ丁寧にご指南いただくとともに、美しい写真とともに綴られたご著書にも一筆を頂戴しました。

 お楽しみの手土産は、『KURATA PEPPER』の黒胡椒たっぷり入り!〈巻子竹輪〉。魚の旨みと皮の香ばしさ、歯切れよくピリッと薫り、オードブルのあしらいや、細切りにしておでんや煮ものサラダのトッピングなど、工夫次第で美味しい楽しいアクセントに!巻物は知恵知識の向上や学業成就の縁起物と言われるので、年末年始のお料理にぜひ加えてみてください。

● GEN-Bの会 年末特別販売 【数量限定品あり】


 学び多き、美味しく楽しい宴で、GEN-Bらしい一年の締めくくりとなりました。ご参加いただきありがとうございました。



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